蓄電池は水没すると非常に危険であり、水分の侵入は大敵です。屋内用であれば設置場所に気をつければそれほど問題はありませんが、屋外用やポータブル蓄電池などのように外に設置したり、アウトドアに持っていったりする場合は、濡れないよう注意が必要となります。そのため、防水性能がついたものを選ぶと安心して使うことができます。購入の際は防塵・防水機能を表すIPXをしっかりと確認しましょう。今回は蓄電池の防水性能を表すIPXについて解説します。
防水性能は防水規格によって異なる
防水性能とは、屋外で使用している際の不意の雨や、寒い時期に発生しやすい結露に有効な性能のことです。
通常蓄電池などの機器は、上下のケースや電池カバーのすき間にシリコン製のゴムパッキンを詰めたり、両面テープを貼って電子部位に水が入ってくるのを防ぐという仕組みになっています。完璧な接着による高い密封性により「完全防水」を実現しています。
防水性能は防水規格によって、水に対する仕様レベルが以下のように異なってきます。
- 防滴:水没すると壊れる
- 生活防水:蓋をすれば雨程度では壊れない
- 完全防水:水の中に落としてもすぐに拾えば壊れない
防水性能は経年劣化や条件、状況によって十分発揮されない可能性がある
スマホやデジカメの端子カバーが伸びきってしまい、しっかりと締まっておらず浸水したなど、どんなに防水性能が高いと評価されていても経年劣化により防水性能が十分発揮されない可能性もあります。
また、防水テストは常温の真水(普通の水)を想定して行われているので、高温多湿なサウナ、化学物質や薬剤が混ざった水(温泉、海水、プールなど)では防水性能が保証されない場合があります。そのため、防水性能が高いといわれていても、水中につけないよう気をつけましょう。
蓄電池に防水性能が必要な理由
蓄電池のような電気を使った機械は、流れるべきところに適切に電気を流し、流れてはいけないところは絶縁されている必要があります。
また、水道水や雨水、池や川の水などは、水の中に溶け込んだミネラルや不純物が電気を流す手伝いをしているので多少でも電気を通します。
そのため、電子機器に水がつくと、電子回路の流れてはいけないところに電気が流れてしまい、正常に動作ができなくなってしまいます。蓄電池が水害などで水没した場合、以下のようなことが想定されます。
- 有毒ガス発生
- 固定金具破損による転倒
- 内部の電池が損傷したことによる発熱・発煙・発火
- 電線損傷による感電
- 電池から電解液が漏れ出す
- 部品端子や接続部分が酸化、腐食し、電気が流れなくなる
乾いて再び使用できるように見えても、正常で安定した動作は保証できず、発火する可能性があり、非常に危険です。再使用・処分する場合は触ろうとしないで、販売店や施工店、またはメーカーなどにすみやかに連絡を取りましょう。
蓄電池を水害から守るための方法や補償などは下記のリンクから詳しく知ることができますので、ぜひあわせてお読みください。
IPとは
IP(International Protection:侵入に対する保護)とは、電気製品の防水・防塵性能を表す規格です。
従来はJIS(日本工業規格)が規定していましたが、2003年からIEC(国際電気標準会議)と統一化が図られ、表記もIEC準拠の「IPコード」に置き替わりました。等級や内容は旧来規定と同じなので、「防滴I形」「防沫形」などの旧呼称もそのまま用いられることが多いです。
IPは電気機器にのみ表記されます。製品の保護構造について防水・防塵の性能を等級に分類し、そのテスト方法と合わせて国際標準として規程しています。国際標準規格なので世界のどこの製品でも防水・防塵の性能は、IPコードで示されます。
IPコードは「IP」の文字の後ろに2つの数字が続きます。
- 前の数字:防塵性能の等級(0~6)
- 後ろの数字:防水性能の等級(0~8)
製品の防水・防塵の性能を確認する際、IPコードをのあとに続く1つ目・2つ目の数字に着目すれば、どれくらいの性能なのかが判断可能になります。
たとえば、「IP68」と書かれていた場合、その製品は6級の防塵性能と8級の防水性能を備えていることを示します。防塵性能も防水性能もともに最高ランクであり、粉塵を完全にシャットアウトし、水中でもすべての操作が可能です。防塵にも完全防水にも対応したアウトドアで活躍する強靭モデルで、そのまま海やプールで使ってもすぐに問題ありません。この規格のパソコン用キーボードやマウスなどの場合、丸洗いできて衛生的だと人気があります。
IPの保護規格はそれぞれ独立しているため、IPX8(水没からの保護)をクリアしていても、IPX6(あらゆる方向からの強く直接噴流からの保護)が補償されるわけではありません。
IPの表示がない場合はどちらの保護性能もないことを、IPの次にX〇(防水だけ)〇X(防塵だけ)となった場合はどちらか一方の保護性能しかないことを示しています。
防塵の保護等級
人体・固形物体に対する防塵の保護等級規格は7段階です。
保護等級 | IPコード | 保護の程度 | テスト方法 |
0 | IP0X | 保護なし | テストなし |
1 | IP1X | 手の接近からの保護 | 直径50mm以上の固形物体(手など)が内部に侵入しない |
2 | IP2X | 指の接近からの保護 | 直径12mm以上の固形物体(指など)が内部に侵入しない |
3 | IP3X | 工具の先端からの保護 | 直径2.5mm以上の工具先端や固形物体が内部に侵入しない |
4 | IP4X | ワイヤーなどからの保護 | 直径1.0mm以上のワイヤーや固形物体が内部に侵入しない |
5 | IP5X | 粉塵からの保護 | 機器の正常な作動に支障をきたしたり、安全を損なう程の料の粉塵が内部に侵入しない |
6 | IP6X | 完全な防塵構造 | 粉塵の侵入が完全に防護されている |
機器の内部に粉塵が入り込んで付着すると、動作不良を引き起こすおそれがあります。すき間が大きいと、指先が入り込んで、感電したり、怪我をしたりする危険性もあります。
このような事故を防ぐためには防塵性能をチェックします。防塵性能は、工事現場などの過酷な場面や天候の影響を受ける場所での撮影などで必須といえるでしょう。そのため、荒天を想定して、外に設置する定点カメラやネットワークカメラも等級を示す製品が多くなっています。
ただし、一般的なアウトドアシーンでは、機器に有害な粉塵が発生するケースはあまりないので、機器を普通に使用する場合、防塵性能はそれほど気にしなくても大丈夫でしょう。
防水の保護等級
水の侵入に対する防水の保護等級の規格は9段階です。
保護等級 | IPコード | 形 | 保護の程度 | テスト方法 |
0 | IPX0 | なし | 水の浸入に対して特には保護されていない | テストなし |
1 | IPX1 | 防滴Ⅰ形 | 垂直に落ちてくる水滴によって有害な影響を受けない | 200mmの高さより3〜5mm/分の水滴、10分 |
2 | IPX2 | 防滴Ⅱ形 | 垂直より左右15°以内からの降雨によって有害な影響を受けない | 200mmの高さより15°の範囲3〜5mm/分の水滴、10分 |
3 | IPX3 | 防雨形 | 垂直より左右60°以内からの降雨によって有害な影響を受けない | 200mmの高さより60°の範囲10ℓ/分の放水、10分 |
4 | IPX4 | 防沫形 | いかなる方向からの水の飛沫によって有害な影響を受けない | 300〜500mmの高さより全方向に10ℓ/分の放水、10分 |
5 | IPX5 | 防噴流形 | いかなる方向からの水の直接噴流によって有害な影響を受けない | 3mの距離から全方向に12.5ℓ/分・30kpaの噴流水、3分間 |
6 | IPX6 | 耐水形 | いかなる方向からの水の強い直接噴流によっても有害な影響を受けない | 3mの距離から全方向に100ℓ/分・100kpaの噴流水、3分間 |
7 | IPX7 | 防侵形 | 規程の圧力、時間で水中に沒しても水が浸入しない | 水面下・15㎝〜1mの水たまりや浅い川に30分間 |
8 | IPX8 | 水中形 | 水面下での使用が可能。 | メーカーと機器の使用者間の取り決めによる (例えば水深2mで30分や1時間、水深20mで30分など) |
具体的な防水性能
一般的に「防水性能付き」という商品は、防水の保護等級が3(一定量の水滴を受けても影響がない)以上のものを指します。
しかし、そういわれても具体的なイメージが沸かないかもしれません。なので、どれくらい防水する力があるのか、具体的な機器や状態を使って説明すると以下のようになります。
- IPX1〜3:落ちてくる水滴に耐えられるレベル。小雨が落ちてくる水滴
- IPX4:濡れた手で触れたり、少々の雨や水しぶきに当たっても大丈夫。携帯電話、デジカメ、防災ラジオなど、該当する製品は多く、キッチンやアウトドアに最低限必要なレベル
- IPX5:お風呂の水しぶきがかかったり、流水で洗ったりしても大丈夫だが、水没は厳禁なので落としたらすぐに取り出す必要がある。スマホ、ブルートゥーススピーカー、お風呂テレビなど、こちらも製品数が多い
- IPX6:波浪のような激しい噴流水に対する防水保護があり、港湾などの装置や設備
- IPX7/IPX8:水中に落としてもすぐに拾えば大丈夫な本格防水レベルで、潜水に対する保護がある。防水スマホ、防水カメラ、防水テレビ、シェーバーなどが該当
IPX4以上の蓄電池
実際に販売されているIPX4以上の蓄電池を2つ紹介します。
Japanis ポータブル電源
防水・防塵規格 | 洪水、水害時にも安心のIPX64 |
バッテリー容量 | 96000mAh/307Wh、リチウムイオン電池(付属) |
製品サイズ | 15.7 x 7.2 x 20.9 cm; 1.5 kg |
インターフェイス | シガーソケット×2、USB×2、USBType-C、DC-in |
バッテリーセルタイプ | Lifepo4バッテリー |
Amazon価格 | 25,800円(2020/1/5取り扱い開始) |
備考 |
|
MOTTARI HP8モバイルバッテリー
防水・防塵規格 | 洪水、水害時にも安心のIPX7 |
バッテリー容量 | 61200mAh、ポリマーリチウムイオンバッテリー |
製品サイズ | 26.8 x 10.9 x 5.4 cm; 740g |
付属ケーブル | Lightning、micro USB、Type-c、USBポート |
ポート数 | USB-Cポート×1、USB-Aポート×2 |
Amazon価格 | 7,980円(2022/06/01時点)(2022/1/11取り扱い開始) |
備考 |
|
まとめ
今回は蓄電池の防水性能を表すIPXについて解説してきました。以下まとめになります。
- 蓄電池は水に弱く、水没すると破損や有毒ガス発生など非常に危険なので、蓄電池にとって防水性能は必要
- IPとは電気製品の防水・防塵性能を表す国際標準規格であり、IPの後ろに続く2つの数字によって防塵・防水の等級を表している
- アウトドアや野外で使用する場合、IPX4以上は最低限必要
蓄電池は水に濡れると危険だからか、IP規格が表記されているものは多くありませんでした。しかし、アウトドアや非常時電源としてだけでなく日常生活でも大活躍できる、持ち運び可能な蓄電池(ポータブル蓄電池やソーラーモバイル)から、IPX4以上ある蓄電池が出たという事は、今後防水性能が高い大型蓄電池開発も期待できるかもしれません。今後の技術に期待です。