蓄電池のリサイクルとリユース

サスティナビリティ社会に必要な使用済み蓄電池の廃棄・リサイクル・リユース方法とは?

近年、環境問題や社会問題への対応など、カーボンフリー化、グリーン化、デジタル化の進展の要として、新たなエネルギー基盤となる蓄電池の需要は今後急激に拡大していくと予想され、サスナビリティな蓄電池のサプライチェーンの構築が求められています。

サスナビリティな社会のために、大量消費・大量廃棄される蓄電池への対策はどうなっているのでしょうか。今回は蓄電池の再資源化(リサイクル)と再利用(リユース)について解説します。

蓄電池の製造と廃棄のプロセスにおける課題

蓄電池の製造と廃棄のプロセスにおける課題は以下のとおりです。

資源採掘など

  • 資源リスク:鉱物資源を大量に使用
  • 人権・環境リスク:児童労働、強制労働 武装勢力支援、水質汚染など

材料製造・電池組立・使用

材料の乾燥や焼成、組立後の蓄電池の充電放電検査などの工程において、多量のエネルギーを使用するため、GHG(Greenhouse Gas:温室効果ガス)の大量排出の要因になる。

回収・リユース・リサイクル

大量廃棄された使用済蓄電地を適切に回収し、リユース・リサイクルする仕組みが必要

・リユースするために必要な情報(残存性能・材料など)やルートの不足

・リサイクル材の活用に当たっての純度の確保、コストの低減

回収した蓄電地から、一定以上の比率で資源を回収する技術や仕組みが未確立

欧州委員会による規制案

蓄電池の製造と廃棄のプロセスにおける課題に対して、欧州委員会は、2020年12月に以下のような「バッテリー規則案」を公表しました。加盟国に強制適用される「規則」とするとともに、電池の欧州域内生産・域内循環を誘導しました。

天然資源採掘・精錬

2023年からNi, Co, Li, 天然黒鉛について、環境・人権等に配慮した調達を促すため、責任ある材料調達(デュー・ディリジェンス)方針策定・公表や調査、対策などの義務づけ

材料と電池製造・利用

  • 2024年からCFP義務
  • 2026年からトレーサビリティ確保、消費者などへの情報提供のため、電池組成や劣化などの関連情報を欧州の情報交換システム経由で入手可能にするデータ流通の仕組み導入(バッテリーパスポート
  • 2027年から排出量が一定以上の電池市場のアクセス制限

CFP(Carbon Footprint of Products)とは、原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出されるGHG排出量をCO2に換算して、商品やサービスに分かりやすく表示する仕組みのことです。

回収・リユース・リサイクル・廃棄

  • 2023年から事業者に対する電池回収義務
  • 2025年からリサイクル事業者に対する一定水準以上の資源回収率要求
  • 2030年から電池製造時に一定以上のリサイクル材の使用義務

諸外国の情勢などを踏まえた蓄電池の検討課題

諸外国の情勢などを踏まえ、日本の経済産業省は検討課題として急増が見込まれる車載用蓄電池を念頭において、以下の項目を挙げました。

蓄電池のCFP算定

  • 廃車後の蓄電池の流通フローや各社の有する一次データを活用しつつ、リユース、リサイクル、埋め立てに大別しながら、どのようなパラメーターが必要かなど課題の具体化を進める
  • 対象範囲:原材料調達、製造、流通、使用、使用後処理のすべてのフロー
  • 比較の単位:生涯電力供給量で割り、1kwhあたりのCFPを比較
  • 排出原単位:産総研のIDEAを基本とし、他データや1次データも使用可。1次データが取得できない場合、国内の小型二次電池シナリオを活用

デュー・ディリジェンス

  • 蓄電池のサプライチェーン(鉱物資源多量消費、資源の採掘・精錬・加工プロセスの環境負荷大など)を踏まえ、すべての調達先を対象に環境・社会的影響の有無を確認し、リスクを継続評価・低減していく仕組み
  • 対象部材:コバルト、ニッケル、リチウム、黒鉛の採掘・精錬・加工プロセス
  • 対象リスク:大気、水、土壌、生物多様性、人間の健康、労働衛生と安全、児童労働を含む労働者の権利、人権、地域社会の生活

蓄電池のリユース・リサイクル促進の仕組みと、実施するためのデータ流通の仕組み

  • 毎年約500万台が国内販売されると、その後約150万台が中古車として海外輸出、約350万台が国内で廃車
  • 解体後の駆動用リチウムイオン電池(LIB)の流通経路として、約半数がリユース、約半数が処理されていた
  • それに対し、日本自動車工業会(自工会)は自動車再資源化協力機構(自再協)を窓口としたLIBの無償共同回収システムにより2018年からLIBの不法投棄を防止している
  • 使用済蓄電池回収力の強化・リユース・リサイクルの活性化のために、リサイクル技術の開発や低コスト化などが求められる

廃棄される車載用リチウムイオン電池の回収量は想定よりも下回っている

統計によると、2021年の世界の車載用リチウムイオン電池のリユース市場は1,790MWh、リサイクル市場はコバルト、ニッケル、リチウムの回収量合計が4万6,810トンと推測されています。廃棄量は9万6,850トンの見込みで、2015年前後から政策主導で電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の市場が世界に先行して成長した中国が94%を占めています。

中国では普及初期の寿命を迎えたEVバッテリーの「大量廃棄時代」が到来しているようです。中国の中央省庁は国が認定したリサイクル企業をホワイトリストに選び、リサイクルを促進してきましたが、認定企業が回収した量は想定を下回っており、業界関係者によると、使用済み電池の80%近くは正規ルート以外で取引されているそうです。

日本はEVやPHEVが中古車として輸出されていることから、廃棄される車載用リチウムイオン電池の回収量は地域によって事情は異なるものの、想定よりも下回っているようです。

リチウムイオン電池のリユース・リサイクル市場の成長拡大のためには、回収量を今後増やす取り組みと、ライフサイクル全体での明確な環境負荷をより包括的に把握するために有用なデータを提供する(LCA(Life Cycle Assessment))観点からCO2排出量を抑えた新たなリサイクル技術が求められるでしょう。

フォーアールエナジー(4R ENERGY)株式会社

フォーアールエナジー(4R ENERGY)株式会社とは、日産自動車株式会社と住友商事株式会社が2010年9月に合弁で設立した、電気自動車で使ったバッテリーの再利用をするための会社です。

4Rとは

4Rとは、以下の活動を表しています。

  • 再利用(Reuse):高い残存容量を持つリチウムイオンバッテリーの二次利用を促進
  • 再製品化(Refabricate):バッテリーパックを分解した後、お客さまのニーズに合うよう電圧や容量を変えて再度パッケージング
  • 再販売(Resell):バッテリーを様々な用途のために蓄電池などとして再販売する
  • リサイクル(Recycle):原材料を回収するために使用済みリチウムイオンバッテリーのリサイクルを行う

再生バッテリー再利用先

再生バッテリーは残存性能によって性能が良いものから、目的を変えて以下のように再利用されます。

  • 再度EVの駆動用バッテリー
  • フォークリフトやゴルフカートなど
  • 事業所・店舗・工場用などの定置型バックアップ電源

踏切の鉛蓄電池を再生バッテリーに置き換える取り組み

フォーアールエナジー株式会社は、一時的な停電時に動作を継続できるよう鉛蓄電池のバッテリーが設置されている踏切に、電気自動車の再生バッテリーに置き換える取り組みを行っています。期待できる効果は以下のとおりです。

  • 鉛蓄電池に比べて、充放電性能が高く、かつ安定したバッテリーが低コストで導入できることから、踏切の電源の安定性が向上する
  • バッテリーの劣化を事前把握可能なので、より適正な取替計画を立てることができる
  • コバルト、ニッケルといったバッテリー資源の効率的使用促進だけでなく、バッテリー製造時の温暖化ガス低減にもつながる

資源有効利用促進法

日本では、これまでの大量生産、大量消費、大量廃棄社会ではなく、持続的発展のために必要な経済システムの構築を目指し、2000年に「循環型社会形成推進基本法」、2001年に「資源有効利用促進法」が制定し、以下のような対策を行っています。

  • 事業者による製品の回収・再利用などの対策強化(リサイクル)
  • 製品の省資源化と長寿命化等による廃棄物の発生抑制(リデュース)
  • 回収した製品の部品などの再使用(リユース)

小型充電式電池を回収する「JBRC」

「資源有効利用促進法」によって、JBRCに登録された全国の協力店、協力自治体、協力事業者などの排出者はリサイクルマークのついた小型充電式電池(ニカド電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池)製品を店頭BOXなどで回収し、再資源化を推進しています。

一般社団法人JBRC(Japan Portable Rechargeable Battery Recycling Center)とは、小型充電式電池の自己回収と再資源化などを義務付けられたメーカーなどをJBRC会員とし、産業廃棄物広域認定を取得して、会員の小型充電式電池のリサイクル活動を共同で行う団体です。2001年4月にスタートしました。

JBRCの回収対象外の電池

JBRC回収対象外電池は着払い返送が原則です。処分に関しては、メーカーまたは自治体に相談しましょう。JBRCの回収対象外の電池は以下のとおりです。

  • 輸送及び保管の安全上、打痕や圧壊などの外的ダメージがある
  • 機器から破砕機などで取り出された電池、電池パックから解体された電池、水没・塩水浸漬された電池
  • 乾電池、鉛蓄電池、小型シール鉛蓄電池、開放型アルカリ蓄電池、リチウム電池、コイン型リチウム二次電池など
  • AC100V出力付ポータブル蓄電池、定置用蓄電池、自動車用バッテリー、加熱式タバコ
  • 分解して取り出した電池やハードケースに入っていないラミネートタイプ電池
  • 自主制作した実験用電池や電池の種類毎に分別されず混載状態のものなど

JBRCの回収対象電池の種類

カドミウムやコバルト、ニッケルなど、不要になった小型二次電池から金属を取り出し、再利用しています。JBRCの回収対象電池の種類は以下のとおりです。

ニカド電池

1つ目は「ニカド電池」です。

ニカド電池は、強力なエネルギーと充電・放電を繰り返して使える経済的な電池です。プラス極がニッケルで、マイナス極がカドミウムとなっており、ニッケル、鉄、カドミウムが再利用できる金属になります。

ニッケル水素電池

2つ目は「ニッケル水素電池」です。

ニッケル水素電池は、ニカド電池より高容量で繰り返して使える電池です。プラス極がニッケルで、マイナス極が水素吸蔵合金となっており、ニッケル、鉄が再利用できる金属になります。

リチウムイオン電池

3つ目は「リチウムイオン電池」です。

リチウムイオン電池は、軽量で、3.6 〜 3.7Vの高電圧が出せる特徴がある電池です。プラス極がコバルト酸リチウムでマイナス極が炭素材となっており、コバルト、鉄、アルミ、銅が再利用できる金属になります。

参照:一般社団法人JBRC(https://www.jbrc.com/general/type/)

再資源化の流れ

電池メーカーは資源を有効活用するために、正極材料の金属情報を電池に表示する取り組みを実施しています。処理施設は、その識別表示に基づいて回収した電池を正極材料の種類ごとに分別し、適切なリサイクル処理を行います。

たとえば、リチウムイオン電池の場合、電解液は一般的に引火性液体を使用しており、回収した電池をそのまま破砕処理すると発火事故につながる恐れがあるため、事前に焼却処理をする必要があります。しかし、電解液を焼却すると有害なフッ化水素ガスが発生します。なので、専用の真空加熱炉や排ガス処理設備などを用いて焼却し、分離精製処理を行い、金属資源へと再資源化します。

コバルトやニッケルなどは希少金属資源として回収されますが、純度や品質を鑑みると必ずしも電池原料として再利用されるわけではありません。また、再資源化が経済的に現状困難なリチウムは、多くの場合スラグ(精錬廃棄物)にされます。

大型蓄電池のリサイクルの難易度が小型より高くなる要因

小型の使用済みリチウムイオン電池などはJBRCが回収し、再資源化しています。しかし、EVや定置用蓄電池や産業用などの大型蓄電池は、JBRCの対象外です。解体作業面や品質・コスト面を考えると、技術的な難易度が高くなります。その要因は以下のとおりです。

  • サイズや重量が大きいうえにメーカーや型式によって形状もさまざま
  • 外装が頑丈に設計されている
  • 小型電池よりも感電や発火のリスクが高い
  • 必要な処理設備投資やリサイクル手法開発などのコスト
  • コバルトやニッケルといった希少金属は価格変動しやすく、正極活物質として再利用する場合に求められる品質水準の高さが求められる

住宅用リチウムイオン蓄電池の回収

住宅用などの定置用リチウムイオン蓄電池システムの廃棄台数は2024年に年間1万台を超えると予測されており、回収作業の効率化やユーザーの利便性を重視し、業界共同での回収スキーム構築が必要です。

メーカーの自主的な回収対策として、環境省から広域認定制度の認定をメーカー毎に受け、家庭用リチウムイオン蓄電池の安全、適正な回収を2020年5月から開始しています。

参照:JEMA 定置用蓄電池システム産業戦略(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/battery_strategy/0003/04.pdf)

広域認定制度とは

広域認定制度とは、製造事業者などが自社製品で廃棄物になったものを広域的に回収する際に、廃棄物処理法上、必要な地方公共団体ごとの許可を不要とする特例制度。各社が環境省へ申請し、環境省が認定を行います。

産業蓄電池を回収する「一般社団法人 電池工業会」

一般社団法人 電池工業会では、資源の有効利用の観点から、広域認定制度に則った処理で産業用蓄電池のリサイクルを推進しています。会員を含む蓄電池製造者などは以下のことができます。

  • 産業用蓄電池処理に対して環境省から広域的な処理を行う者として、2014年2月に認定(認定番号 第234 号)されている
  • 地方自治体の廃棄物処理業許可を不要とする特例制度にて引取りから再資源化まで可能

処理可能な産業用蓄電池

一般社団法人 電池工業会では、産業用・家庭用の定置型リチウムイオン蓄電池は対象外です。処理可能な産業用蓄電池などは以下のとおりです。

  • 開放型鉛蓄電池(ベント形据置鉛蓄電池)
  • 密閉型鉛蓄電池(制御弁式据置鉛蓄電池)
  • 小型制御弁式鉛蓄電池
  • 開放型アルカリ蓄電池(据置ニッケル・カドミウムアルカリ蓄電池)
  • 密閉型アルカリ蓄電池(シール形ニッケル・カドミウムアルカリ蓄電池)
  • 電気車用鉛蓄電池
  • 船用鉛蓄電池
  • 整流器、充電器、インバーター、蓄電池盤、蓄電池架台、接続線など

 参照:一般社団法人 電池工業会(https://www.baj.or.jp/battery/lead-acid/index.html)

広域的処理認定業者として認定された会社

一般社団法人 電池工業会では、広域認定蓄電池メーカー5社が製造・販売したものは全て処理可能です。広域的処理認定業者として認定された会社は以下のとおりです。

  • 古河電池株式会社
  • 株式会社GSユアサ
  • 昭和電工マテリアルズ株式会社
  • エナジーシステムサービスジャパン株式会社
  • 株式会社 GSユアサ エナジー

まとめ

蓄電池の再資源化(リサイクル)と再利用(リユース)について解説してきました。以下まとめになります。

  • 蓄電池は発火の危険があるため、電気量販店の回収BOXや自治体の窓口など、指定された場所で適切な廃棄を行う
  • 使用済み車載用リチウムイオン蓄電池を踏切の鉛蓄電池と交換して再利用など、サスティナビリティ社会へ向けた蓄電池4つの課題対策への試みはもう始まっている
  • 登録メーカーの全国協力店、協力自治体、協力事業者などの排出者は、小型二次電池は「JBRC」、産業用蓄電池は「一般社団法人 電池工業会」を自己回収・再資源化する義務がある

新しい車を買うため廃棄された電気自動車用のリチウムイオン蓄電池は、再生バッテリーとしてリサイクルすることで、役目を変えて働き続けることができます。再生可能エネルギーとの組み合わせによる活用など、活用方法はどんどん拡大していくでしょう。今後、さらなる回収・リユース・リサイクルの明確な仕組みづくりと技術の向上を続けていけば、サスティナビリティな社会へとつながっていくでしょう。

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蓄電池コンシェルジュは、蓄電池を購入しようとお考えの方々に、蓄電池を活かした暮らしをするための上質なコンシェルジュサービスをご提供しております。再生可能エネルギーに理解のある方々にご利用頂くことが「脱炭素社会」実現へのカギとなります。蓄電池コンシェルジュは、文化的、社会的資産を後世に引き継ぎ、社会的責任としての取組みのみならず、日本の人口減少と地球温暖化の危機を救うためのお手伝いをさせて頂いております。

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蓄電池コンシェルジュ代表
根上 幸久

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