日本の蓄電池ビジネスは海外よりも周回遅れ? アメリカとイギリスの蓄電池ビジネスモデルを紹介!

アメリカでは蓄電池は太陽光の10年後ろを追いかけているといわれています。日本でも太陽光発電を増やしていった場合、(ピークシフトや変動調整のために)蓄電池は太陽光導入ペースの5年後ろを走る状況もあるそうです。欧州や欧米ではどのような蓄電池ビジネスモデルを展開しているのでしょうか。
今回は海外の蓄電池ビジネスモデルについて解説します。

欧州の蓄電池ビジネスモデル

ヨーロッパ市場では、固定価格買取制度(FIT)の低減および廃止により家庭用需要家向けの蓄電池の導入は拡大傾向にあります。FITでの買い取り期間が切れる家庭用太陽光発電需要家に対して、蓄電池を導入し自家消費率を拡大させることで電力コスト低減を訴求する事業者が数多く参入しています。蓄電池は初期費用が高額なため、投資対効果を向上させるために、容量の一部をデマンド・サイド・フレキシビリティー(DSF)として活用する事業者が数多く出現しています。

デマンド・サイド・フレキシビリティ(DSF)とは、デマンドレスポンス(DR)やVPP、デマンドサイドマネジメント等を包含する言葉です。TSO(送電事業者)やDSO(配電事業者)電力市場、電力小売を活用して金銭的な価値を得ることを指します。

デマンドレスポンスとは、電気の需要(消費)と供給(発電)のバランスをとるために、需要家側の電力を制御することです。

デマンドサイドマネジメントとは、電力需要の伸びに対し、電力会社が発電所を新設し供給力を増やしていくのとは別に、需要者側に働きかけてピーク時の使用量を抑えたり需要を平準化したりすることです。

事業者は導入する蓄電池の投資対効果を最大化し、競合他社と差別化を図るため、次のような方向性で提供サービスの拡張を図っています。

管理アセットの拡張

1つ目は「管理アセットの拡張」です。

蓄電池、暖房設備、EV充電器などを一括で最適運用制御することで、太陽光発電の自家消費率の最大化を支援しています。

DSF活用による収益獲得

2つ目は「DSF活用による収益獲得」です。

自家消費最大化による需要家の電力コスト削減のみに蓄電池を活用するのではなく、一部を調整力や電力調整コストの低減に活用することで新たな収益獲得を支援しています。

イギリスのソーシャル・エナジー社

英国のソーシャル・エナジー社は、太陽光発電を保有する家庭用需要家向けに蓄電池の販売、電力小売り、およびデジタル技術を活用した蓄電池の最適運用サービスを提供する2013年に設立されたスタートアップ企業のことです。

ソーシャル・エナジー社の最大の特徴は、独自に開発したAIプラットフォームによる需要家のハードウエア(太陽光発電+蓄電池)の統合制御とVPP(Virtual Power Plant)構築を行っていることです。
英国TSOであるナショナル・グリッドESO社のFFR要件を満たす英国初のエネルギー供給事業者であり、現在1,000kWのFFR契約を獲得しています。

ナショナル・グリッドとは、イングランド・ウェールズとアメリカ合衆国北東部を事業対象とし、イギリス・ロンドンに本拠を置く、送電およびガス供給事業者のことです。

FFR(Firm Frequency Response)はイギリスTSOであるナショナル・グリッドESO社が提供するアンシラリーサービスの中で最も取引価格が高く、最低入札容量は1,000kWです。
周波数応答には3つの応答速度があり、プロバイダーはこれらの1つのみ、または異なる応答時間の組み合わせにて提供が可能です。
周波数応答は以下の通りです。

 一次応答:10秒以内の応答および20秒間継続
 二次応答:30秒以内の応答および30分間継続
 高周波数応答:10秒以内の応答および無期限の継続

また、1秒以内での電力需要と太陽光発電量を予測し、蓄電池の充放電の最適化を通じて、各顧客の太陽光発電自家消費比率の最適化を実現しています。

さらに、蓄電池の一部容量をDSFとして活用し、TSOにおけるFFRや、アンシラリーサービス、および卸市場や需給調整市場でのアービトラージ取引として利用することで、新たな収益を獲得できる仕組みを構築しています。

アンシラリーサービスとは、電気エネルギーの供給に対して確実に行うために、周波数調整、調整力、無効電力、電源制限など、エネルギー供給には直接結びつかない諸々の補助的なサービスのことをいいます。

アービトラージ取引とは金利差や価格差を利用して売買し利鞘を稼ぐ取引のことです。安いところで買い、高いところに持って行って売るだけで、利益を得ることが可能となる取引です。

DSF活用により獲得した収益の約70%を顧客に還元する枠組みにより、顧客はサービス利用前の電気料金から最大70%削減を実現し、イギリスは蓄電池の投資採算性を最大限にするビジネスモデルを取っているといえるでしょう。

今後、ソーシャル・エナジー社はイギリス市場とオーストラリアに加え、製品テストを終了しているアメリカ、ドイツ、イタリアにも進出し、蓄電池だけでなく、ヒートポンプやEV充電器など、その他アセットも統合制御できるプラットフォーム拡張も目指しています。そのため、家庭用需要家アセットのDSFへの活用において、注目すべきデジタルベンチャーの一社となっています。

アメリカにおける蓄電池ビジネスモデル

新たなエネルギービジネスが次々と誕生しているアメリカは、分散電源を活用した新たなビジネスモデルで世界のトップを走り続けています。

アメリカの蓄電池産業の特徴は、蓄電池のセル製造などを手掛ける(川上)ことはほぼ皆無であり、蓄電池を用いたビジネス(川下)が非常に盛んなことです。

定置型蓄電池を用いたビジネスとは、サービスビジネスです。蓄電池を貸与して、電気代の節約を助けたり、需要家に太陽光発電と組み合わせて電力供給を提供するビジネスモデルです。

サービスの提供相手は電力会社、法人需要家であり、提供企業は顧客と10年、20年という長期的サービス契約を交わし、地道にPPA(Power Purchase Agreement)で稼ごうとします。

PPAとは、電気を利用者に売る小売電気事業者と発電事業者の間で結ぶ「電力販売契約」の事です。小売電気事業者はいろいろな発電事事業者から電力を仕入れて利用者に提供しています。

再生可能エネルギーが増えると、蓄電池のニーズは顕在化する

再生可能エネルギーが増えると、蓄電池のニーズは顕在化します。そのため、蓄電池ビジネスは大手のサービスプロバイダーの活躍する分野になっています。

再生可能エネルギー比率が10%以下の場合、蓄電池のニーズは火力発電など従来型の発電に隠れてしまい顕在化はしません。しかし、カリフォルニア州やハワイ州のように再生可能エネルギー比率50%や100%を目指すとなると、蓄電池はなくてはならない存在に変化するでしょう。

カリフォルニア州は「3大電力会社は、2020年までに合計で1,325 MWのエネルギー貯蔵を調達し、2024年までにオンライン化しなければいけない」という州法(AB2315)を2013年に制定しました。そのため、大型蓄電池が今後急速に増え、アメリカの大型蓄電池の80%はカリフォルニア州に設置されると言われています。2017年から補助金も再スタートし、高額なデマンドチャージ(需要電力料金)とSGIPによって、需要家側での蓄電池設置は、投資回収期間が短くなりました。

SGIP(Smart Grid Interoperability Panel)とは、米国国立標準技術研究所(NIST)の担うスマートグリッドシステム全体の技術標準整備を支援する目的で、750以上の関係企業等で構成される検討グループのことです。スマートグリッドとは、電力の流れを供給・需要の両側から制御し、最適化できる送電網のことです。SGIPは2009年11月に設立されました。

よって、カリフォルニア州での導入障壁は相当低くなるので、ビジネスチャンスといえるでしょう。

ハワイ州のバッテリー・ボーナス

アメリカのハワイ州は、ハワイ州は、アメリカで「再生エネルギー100%」目標を法律家した最初の州であり、再生可能エネルギー、特に分散型電源の推進制度でリーダー的な存在といわれています。

2021年7月、ハワイ州オアフ島をサービス管轄とする米大手電力会社ハワイ・エレクトリック(Hawaiian Electric Co.、以後HECO)提供で、既存または新設する太陽光発電に蓄電池を併設した顧客へ、補助金を支給すると発表しました。

オアフ島は特に家庭用を含む屋根置き分散型太陽光発電システムの導入量が多く、その量は513MWで、州全体の53%を占めています。

補助金プログラム「バッテリー・ボーナス」の目的は、夕方の特定の時間に蓄電池から電力網に放電し、逼迫するピーク時の電力供給を補うためであり、災害時に活用可能な家庭用蓄電池システムの導入促進ではありません。

大小の島々で構成されるハワイ州の電力網は、アメリカ大陸本土と連系していない独立系統であり、島と島同士も結ばれていません。そのため、ハワイ州はアメリカの中で輸入石油への依存度が高く、早くから脱炭素化へ向けて再生可能エネルギーを推進してきました。

「再生可能エネルギー100%」目標を2045年までに達成するために、ハワイ州は分散型電源の目玉である屋根上太陽光のさらなる導入拡大に向けて、今まで推進制度をたくさん打ち出してきました。そのため、ハワイ州は屋根上太陽光普及率がアメリカトップになっています。

ハワイ州エネルギー省のデータによると、2020年末時点でハワイ州の住宅では、太陽光発電システムが31%も搭載されており、新規導入された太陽光発電に蓄電池が併設されている比率は78%と、他州に比べて高いです。

ハワイ州で太陽光発電導入が進んだのは、制度だけではありません。ハワイ州はアメリカで電気料金が一番高く、非常に高い電気料金単価によって他州以上に太陽光投資回収が容易になりました。

HECOがバッテリー・ボーナスに当てる予算は3,400万ドルで、ハワイ州公益事業委員会(PUC)で認定された合計50MW分の蓄電池に補助金が支払われます。申請は2023年6月20日までであり、50MWの上限に達するまで受け付けています。

早期購入・導入促進のため、最初の15MWに達するまで、補助金はkW当たり850ドルで、次の15MW分には750ドル、最後の20MW分には500ドルが支給する仕組みとなっています。

このプログラムにおいて重要な条件は、毎日契約で決められた2時間、日中に太陽光発電で蓄電池に充電した電気の内、決められた量を電力網に放電しなくてはならないということです。契約期間は10年です。

たとえば、15MW分が埋まる前に5kWを申請した場合、合計4,250ドルが支払われ、1日2時間、10kWhを放電することになります。

5kW×850ドル=4,250ドル
5kW×2h=10kWh

オアフ島のピーク需要は午後5~9時であり、真昼の太陽光をいかにこのピーク時間帯に蓄電池などのエネルギー貯蔵によってシフトできるかが課題になります。

HECOの電力需要ピークは夕方なので、午後6時から午後8時の2時間を指定された場合、申請者はこの2時間毎日10年間蓄電池から電力を放電することになります。

まとめ

海外の蓄電池ビジネスモデルについて解説してきました。以下、まとめになります。

・イギリスは、自家消費最大化による需要家の電力コスト削減のみに蓄電池を活用するのではなく、蓄電池の投資採算性を最大限にするビジネスモデルを取っている
・アメリカは、蓄電池を貸与して、電気代の節約を助けたり、需要家に太陽光発電と組み合わせて電力供給を提供するビジネスモデルを取っている
・イギリスもアメリカも、蓄電池自体のビジネスではなく、蓄電池を利用したサービスを用いたビジネスモデルと展開している

日本において蓄電池は、非常事態に備え電気を蓄える電池、自家消費することで電気代を節約できるといったイメージが強いですが、海外は蓄電池を用いてサービスを次々と生み出し、その投資採算性を顧客にキャッシュバックすることで蓄電池普及を広げて行っています。
日本が海外ビジネスモデルのように展開できるようになるには何年かかるのか、今後の展開に注目です。

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蓄電池コンシェルジュ代表
根上 幸久

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