蓄電池は非常用電源として東日本大震災を契機に注目が高まりました。災害時の停電は急に起こります。スマホの充電が切れてしまって情報が得られない、冷蔵庫の電源が切れてしまい中の物が傷んできた、企業のパソコンのデータが飛んでしまうなど様々なトラブルが発生するでしょう。しかし蓄電池があればこの問題は解決することができます。いざという時、蓄電池を使って困難を切り抜けたいですよね。そこで今回は非常用電源として蓄電池を使い、バックアップをするにはどうしたらいいのかを解説していきたいと思います。
非常用電源とBCP
非常用電源とは災害時の停電が発生した場合、停止や故障を回避するために一時的に電力を給電するための装置です。蓄電池のように、あらかじめ内部に貯蓄していた電気を放電する事で電化製品を動かすことが可能で、スマホの充電をすることもできます。
テロや災害、システム障害など危機的状況下に置かれた場合でも、重要な業務が継続できる方策を用意し、生き延びられるようにしておくための計画をBCPと言います。
令和元年台風第19号の被害総額は3,961億円で停電は2~3週間続きました。これにより、大規模自然災害に対する企業の影響が大規模、かつ多様化し、「自然災害に直面した際にも事業を継続する」ためのBCP対策の重要性が高まりつつあります。
停電時に非常用電源がなければ病院や介護施設などで医療機器が停止してしまいます。それだけでなく、エアコンなどの空調も停止してしまい、熱中症により亡くなる方が多数出てくるでしょう。
BCP対策において通信手段の確保は特に重要視されます。
何故ならBCPを実行するには円滑な情報連携が必要だからです。被災時に従業員の安否確認や支援や指示、取引先との連絡手段の確保など、企業が行わなければいけないことはたくさんあります。
通信手段の確保にはPCや電話など通信機器の電源が必要不可欠です。会社に設置されている非常用電源の中には消防設備用にしか使えないものもあります。いざという時に困らないよう、非常用電源を確認しておく必要があります。
非常用電源蓄電池の種類
非常用電源蓄電池は大きく分けて2種類あります。
①家庭用
②産業用
家庭用と産業用ではどう違いがあるのでしょうか。詳しく解説していきます。
家庭用蓄電池
家庭用蓄電池の容量はだいたい4~12kWhであり、更に2つの型があります。
①定置型(住宅用太陽光発電機と連携できる機種など)
②ポータブル型(アウトドアなどに使える持ち運び可能な機種)
この2つの型について説明します。
定置型蓄電池
スペースを確保した上で蓄電池を設置する据え置き型の蓄電池の事を定置型蓄電池といいます。
定置式蓄電池は災害時の非常用バックアップ電源として頼もしいですが、本来の目的は生活で使用する電力を極力貯蓄した電気で賄い、電気料金を削減する事にあります。
定置型は家庭用蓄電池の中でも容量が大きく6.6kWhや7.8kWh以上のものがあります。主に急速充電が可能なリチウムイオン電池が使われています。リチウムイオン電池が採用されているから定置型蓄電池は高価で容量が大きいのでしょう。
定置型蓄電器には2種類の型があります。
①全負荷型(停電時に家中の電気をバックアップ)
②特定負荷型(停電時特定のコンセントにのみ電気を送る)
全負荷型はすべての電気機器に接続し、電気を供給する事によって全部屋で普段通りの生活が可能です。電気機器にはエアコンやIHなど200Vと容量や出力の高いものもあるので計画的に電力を使用しましょう。
特定負荷型は特定の電子機器を指定して電気を供給します。設置工事の時に指定して配線し、指定箇所以外では電気が使えません。必要箇所を絞るので電気の使い過ぎにならず、商品数も多く、全負荷型よりも値段が安いです。
ポータブル型蓄電池
ポータブル型蓄電池は移動式蓄電池ともいわれています。非常用や緊急時の一時利用として使われ、東日本大震災時に大型のスーツケースのようなポータブル型蓄電池が取り上げられていた事もあります。
ポータブル型蓄電池は災害などの非常用として最適です。しかし、日常的に使用する蓄電池としては容量が少ないのが難点です。
また、非常用に使うものなので定置型に比べて低価格です。日本は災害が多い国なのでポータブル型蓄電器は更なる進化を遂げ、より軽量で、複数台接続して容量増加可能な物など、バリエーションも広がっています。
非常用の家庭用蓄電池はこんな方にオススメ
非常用電源としての家庭用蓄電池はこんな方にオススメできます。
①災害に備えたい人
②FIT期間が終了する住宅用太陽光発電を設置している方
災害が起こって停電になっても、非常用電源として家庭用蓄電池を備えておくと電気のある生活を送ることが可能です。家庭用蓄電池の容量は大きければ大きいほどいいわけではなく、各家庭の約一日分の電気消費量や停電時の電気の使い方をよく考えてから選んでください。
FIT(固定価格買取制度)で電気会社と個人が結んだ契約売電期間は10年です。電力会社と再び契約をする方もいらっしゃいますが、それよりも家庭用蓄電池の導入をオススメします。何故なら売電価格は今までより安くなっているからです。家庭用蓄電池を導入し、購入電力を減らす方がお得と言えます。
日中太陽光発電で発電して自家消費し、蓄電池へと余った電力を貯蓄します。蓄電池に貯蓄された電気は夜に放電する事で電力会社から電力を購入する額を減らすことができるのです。売電よりも貯蓄・運用する事で電気代を削減しましょう。
産業用蓄電池
法人向け非常用電源としてオフィスビルや工場、公共施設などに設置される大型の蓄電池を産業用蓄電池と言います。産業用と家庭用の大きな違いは3つあります。
①容量
②価格
③種類
この3つの違いについて説明していきたいと思います。
産業用蓄電池の容量は大きい
家庭用蓄電池の容量は最大でも10kWですが、産業用蓄電池は約10~500kWと大容量です。大規模な産業用蓄電池となると複数の蓄電池を統合する事によって大容量を実現している場合もあります。どの容量が必要なのかは工場や倉庫の1か月分の電気代を計算するといいでしょう。産業用蓄電池にはウェブサーバーや医療機関など電気供給が止まると致命的な業種も多数あり、顧客から損害賠償に発展する可能性もあります。そのためBCP(事業継続計画)対策として太陽光発電と大型蓄電池を導入する事業者も増えてきています。
産業用蓄電池の価格は高い
家庭用蓄電池の価格は数百万円程ですが、産業用蓄電池の価格は1,000万円を超える場合もあります。産業用は1kWhあたり30万円程度が相場です。
産業用蓄電池は家庭用蓄電池と異なり、大きな熱が発生するので排熱のための通気経路や設備、屋外に設置するための雨よけを必要とするので、その分高額になります。
産業用蓄電池は価格が高いので、導入する際に補助金を使うのがいいでしょう。国から出ている補助金で「地域の防災・減災と低炭素化を同時実現する自立・分散型エネルギー事業」を申請すれば、太陽光発電と蓄電池をセットで導入した場合、対象工事費、部材費用に対して2分の1まで補助対象となります。これはかなりお得ですね。
産業用蓄電池の種類は4つ
家庭用蓄電池に使われている電池はリチウムイオン電池の一種類です。それに対し産業用蓄電池は4種類使用されています。
①鉛蓄電池
②NAS電池
③リチウムイオン電池
④ニッケル水素電池
同じ蓄電池でも含まれている物質や材料によって特徴が大きく異なり、それぞれ適した用途で使い分けされています。
鉛蓄電池は自動車のバッテリーやフォークリフトの主電源、非常用バックアップ電源として使われます。
①開発から150年以上経っても使用されている
②過放電を行ったり、使用後早急に充電しないと劣化が早くなる
③使用期間が17年と長寿命蓄電池
④ミニUPS(パソコンの電力バックアップ用)に使用されている小型制御弁式鉛蓄電池
⑤大型UPS(病院などの非常用電力バックアップ)に使用されている制御弁式鉛蓄電池
⑥ビルの非常電源、コンピューたの停電対策を目的としたバックアップに使用されるベント形鉛蓄電池
NAS電池は工場などの大規模施設のバックアップ電源として活躍しています。
①使用期間は15年
②鉛電池に比べ約 3 倍の高エネルギー密度
③2,500回以上の充放電が可能、自己放電がないので効率的
④長期耐久性
⑤瞬時電圧低下対策により通信機能の維持やデータ、製品の損失を防止
⑥ナトリウムや硫黄といった危険物指定が入っているため、作動温度を300度に維持しなければいけないなどのメンテナンスが必要
⑦世界で唯一日本ガイシ株式会社のみが製造している
⑧再生可能エネルギーの出力安定化対策としての用途が期待されている
リチウムイオン電池はノートパソコンや携帯電話など日常生活と密接に関わっている蓄電池であり、大容量化に向けて開発が進んでいます。
①使用期間は10年
②鉛電池より軽く、急速充電に優れ環境に優しい
③小型化・高密度化が可能なため、スマホやPCのバッテリーに使われている
④産業用でロボットや車など幅広く使用されている
⑤電池の形状や正極・負極の素材の違いで様々な種類がある
⑥過充電や過放電に弱い
ニッケル水素電池は産業用蓄電池の中でも最も寿命が短いです。
①使用期間5~7年
②高温環境下や大電流充電により電池温度が上がると劣化が早まる
③放っておくと内臓電力が減少する
④ハイブリッド自動車に利用されている
⑤放電時に周囲の金属や物質に影響を与えないので過放電の心配が少ない
⑥充放電が速く、数百kWhの容量を充電可能
産業用では特にリチウムイオン電池に加えてNAS電池がよく使用されるようです。NAS電池は価格が安く、大容量で、耐久性もあるので産業用蓄電池に向いているからです。硫黄を使うのでメンテナンスなどが必要ですが、大規模施設となるとリチウムイオン電池よりもNAS電池の方が合っているのかもしれません。
まとめ
蓄電池は非常時にバックアップができて役立つことを解説してきました。以下まとめになります。
・家庭用の蓄電池は2種類ある
・家庭用の蓄電池は太陽光発電と組み合わせると強い
・産業用蓄電池は容量・価格・種類が豊富
災害の中、真っ暗で電気のない生活は煽る必要のない不安まで抱いてしまいますよね。電気があればそれだけで心が明るくなり、不安は減少します。災害による生活不安だけでなく、停電や瞬電によるパソコンのデータ損失などがないように、蓄電池を非常用に備え、バックアップ体制を万全にしましょう。以上非常用蓄電池とバックアップについてでした。