蓄電池とプロジェクトファイナンスとは? プロジェクトファイナンスは長期的で大規模な融資に適している

世界的なインフラ整備・民営化の加速や脱炭素の流れ、新型コロナウィルスの蔓延により、プロジェクトファイナンスを巡る環境は急速に変化しています。プロジェクトファイナンスとは、プロジェクトから発生するキャッシュフローを信用力の源泉として、ファイナンスが行われます。金融機関が蓄電池をプロジェクトファイナンスによる融資対象として見る場合、相対契約による収入の方がリスクは低いため取り組みやすいといえるでしょう。今回は蓄電池とプロジェクトファイナンスについて解説します。

プロジェクトファイナンスとは

プロジェクトファイナンスとは、返済原資を当該プロジェクトのキャッシュフローに限定し、かつ、融資に係る担保の取得を当該プロジェクト資産に限定するファイナンス手法であり、典型的なキャッシュフロー・ファイナンスの一種です。形式はローン、ボンド等が考えられますが、日本においてはローンが圧倒的に多く、プロジェクトから発生するキャッシュフローを信用力の源泉として、ファイナンスが行われます。

融資に対する返済の原資も、プロジェクトから発生するキャッシュフローに限られている(リミテッドリコースファイナンス)ため、企業の信用力や担保の価値に依存するコーポレートファイナンスとは異なり、事業を行う企業やスポンサーへの債務保証を求めないノンリコースファイナンス(ノンリコースローン)となっています。そのため、スポンサーによるサポートは限定的です。

多額な負債を必要とする大規模なプロジェクトで用いられるため、中心となるプロジェクト会社は、複数のスポンサーが出資するSPC(Special Purpose Company:特別目的会社)として設立されます。このSPC向けに行われる融資が一般にプロジェクトファイナンスと呼ばれます。主に資源・電力・インフラ分野を対象とし、10~30年といった長期の経済耐用年数・償却期間を必要とする大型設備向けの融資が適しています。

SPCとは、企業が不動産など特定の資産を企業内部から切り離し、その特定の資産やプロジェクトのためだけに作られる会社です。会社といってもその実態はペーパーカンパニーであり、企業本体の資産を保有する受け皿として機能しています。

設立されたSPCは当該新規ビジネス以外の収入源がありません。融資を行う金融機関は、新規ビジネスの事業計画をさまざまな観点で分析し、長期の事業性を検討しなければいけません。また、万一の場合に備え、SPCが保有するすべての資産・契約に対して担保を設定します。

そのためプロジェクトファイナンスでは「資産売却」「追加借り入れ」「担保設定」を行う場合、貸出金融機関の承認なく行うことはできません。また、事業の状況についても定期的に詳細な報告をすることが求められます。

SPCはローンの借入人や担保の設定者となる一方、各種プロジェクト契約における発注者となります。スポンサーが複数の場合には、当該スポンサー間において株主間契約が締結されます。

また、インフラなどの公共事業や公共的な要素の強い民間の事業について活用されることも多く、その場合はPFI(Private Finance Initiative:民間資金等活用事業)会社を設立することが多いです。

PFIとは、民間の資金と経営手法、技術およびアイデア等を活用して、公共施設等の設計および建設・整備や公共施設等の維持管理および運営を行う手法のことです。

プロジェクトとは

多岐に渡るか一つのパッケージとして特定されたプロジェクトが対象となります。対象となる特定のプロジェクトの利用分野は以下の通りです。

・石油、ガス
・電力、再生可能エネルギー
・鉱山
・インフラ(空港、道路、港湾、鉄道等)
・テーマパーク・統合型リゾート等

プロジェクトの案件は2つに分かれます。
・ブラウン・フィールド案件:プロジェクトがすでに完工している。インフラの民営化案件が多い
・グリーン・フィールド案件:開発からスタート。エネルギー案件が多い

プロジェクトファイナンスとPPA

1978年に米国で制定された公益事業規制政策法(PURPA: Public Utility Regulatory Policy Act of 1978)に基づくコジェネの買取義務が、電気事業でプロジェクトファイナンスが世界で初めて組まれた契機だといわれています。

コジェネとは、コージェネレーションのことであり、2つのエネルギーを同時に生産し供給する仕組みのことです。現在主流となっているコジェネは「熱電併給システム」と呼ばれるもので、天然ガス、石油、LPガス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムになっています。

電力会社とコジェネ事業者の間の長期のPPA(Power Purchase Agreement:電力販売契約)は、安定的な事業キャッシュフローを生み出します。

PPAとは、事業者の屋根上に太陽光発電システムを無償で設置し、発電した電力を需要家が購入することです。

プロジェクトファイナンスでは、プロジェクトの資産とキャッシュフローを担保として融資を調達するので、返済が確実となるよう、融資を行う金融機関はキャッシュフローの安定性を重視します。よって、長期の固定価格によるPPAとプロジェクトファイナンスは相性が良いといえるでしょう。

プロジェクトファイナンスに基づく再エネのコーポレートPPAもまた、米国を中心に普及が広がりました。

再エネのコーポレートPPAとは、需要家(企業)と再エネ事業者の間で直接、PPA(電力購入契約)を締結するというもので、具体的な形態は様々あります。実際に組成した案件が多いとされているプロジェクトファイナンスは、メガソーラーや陸上風力など、大規模プロジェクトで、融資によるレバレッジ効果により事業者の収益性を高められるものです。今後もRE100の加盟企業などのニーズを受け、更なる上積みが期待されています。

再生可能エネルギー促進を支える税の減免制度

1990年代後半以降の米国では、主に再生可能エネルギー利用基準(RPS)が採用され、連邦政府や各州において様々な再エネ支援策が講じられました。特に連邦政府による再生可能エネルギー促進を下支えしている税の減免制度は次の通りです。

・PTC(Production Tax Credit:発電税額控除)
・ITC(Investment Tax Credit:投資税控除)

PTC

1つ目が「PTC」です。

PTCは主に風力発電プロジェクトに利用されています。
PTCは生産開始から10年間、発電量に対してある一定の税額控除が適用されるもので、主として陸上風力で使用されています。発電量ベースのインセンティブであり、1kWhの発電につき2.3セントの税額控除を風力発電に提供します。米国の風力発電部門の成長は、このPTCに負うところが大きかったといわれています。
2021年5月に提出された「GREEN法案」では、2026年末までに着工を開始させることができれば税額控除対象になります。

ITC

2つ目が「ITC」です。

ITCは主に太陽光発電プロジェクトに利用されています。
ITCは投資額の一定割合を税額控除できる制度です。1回限りの税額控除ですが、総投資額の30%を法人税から控除可能ですので、設備の初期費用が高い太陽光プロジェクトにとって恩恵が大きいです。
2021年5月に提出された「GREEN法案」では、税額控除率・期間が2025年まで30%、2026年は26%、2027年は22%、2028年以降は10%まで延長・拡充することになっています。

また、系統上の技術的課題を軽減する取組みの一つとして、米国ではメガソーラーと蓄電池をセットで開発する動きも増えてきています。年間充電時間の75%以上をメガソーラーで充電するものであり、メガソーラーと蓄電池が同一所有者であればITCの対象となります。

蓄電池投資

金融機関による投資対象となっている場合、融資を提供する観点からは、プロジェクトファイナンスとしてノンリコースローンを提供できることが多いとされています。
金融機関の立場からは蓄電池投資を以下の通りに分類できます。
①Renewable + (再エネ併設)
②Standalone(蓄電池単体)

また、Standaloneは更に以下の通りに分類できます。
① IFM(In Front of Meter)
②BTM(Behind The Meter)

Renewable +

Renewable +とは再エネ併設型蓄電池のことです。
日本政策投資銀行は北海道道北地区の蓄電池(240MW / 720MWh)が併設された風力発電に対して、資金調達者と投資家の間を取り持つ金融仲介者として、プロジェクトファイナンスを組成しています。

太陽光や風力といった再生可能エネルギーに蓄電池を併設することで、日照・風況に応じた発電量による価格の変動率が緩和されます。Standaloneが系統側・消費者側に設置されるものであることに対して、Renewable +は発電側に設置されるものです。

金融機関にとっては投資をする立場でもプロジェクトファイナンスにより融資する場合でも、Renewable +は馴染みがあるため取り組みやすいと言えます。米国でもRenewable +が先行する形で蓄電池投資が登場しています。米国では、蓄電池が再エネ由来の電気を75%以上活用する場合はITCを受けることが可能です。

Standalone

2つ目が「Standalone」です。
Standaloneとは、蓄電池単体で急速に充放電できる特性を利用して、系統向けや消費者向けにサービスを提供するものです。蓄電池単体で事業が成立するかは、収入や許認可という観点で政策・規制の影響を強く受けます。Standaloneの蓄電池でプロジェクトファイナンスが組成されているものは、長期契約に基づく収入があるものです。

電気の使用量を計測するメーター(Meter)の前にあるか、後ろにあるか、という切り口で以下のように分類されます。

IFM蓄電池

1つ目は「IFM蓄電池」です。

IFM(In Front of Meter)蓄電池とは、消費者のメーターよりも前(系統側)に設置され、消費者の電力使用量には関わらず、系統向けにサービスを提供します。

IFMの具体例は以下のとおりです。
・PJMのRegulation D:需給調整市場から収入を得るプロジェクト
・NYISOのConsolidated Edison:送配電事業者との相対契約から収入を得るプロジェクト

ニューヨーク州は再エネを推進する中、再エネ普及に伴う電力需給の変動調整のため、州内の送配電事業者に蓄電池を入札で調達する義務を課しています。応札する投資家は求めるリターンを得られるよう、相対契約から得られる収入を決めます。送配電事業者はそのような提案の中から1件を選定し、投資家はプロジェクトを通じて求めるリターンを得ることができます。

それだけでなく、入札を通じて選定されたIFM蓄電池に対しては、NYSERDAから補助金が交付されます。
ニューヨーク州は(送配電事業者に対する)入札による調達義務と補助金によって、IFM蓄電池投資が成立しています。

BTM蓄電池

2つ目は「BTM蓄電池」です。

BTM(Behind The Meter)蓄電池とは、消費者のメーターよりも後ろ(消費者側)に設置され、消費者の電力使用量を削減する等、消費者向けにサービスを提供します。

BTMの具体例は以下の通りです。
・2017年にカリフォルニア州にプロジェクトファイナンスが組成されたBTM蓄電池プロジェクト(消費者との相対契約による収入を得ている)

蓄電池を保有するSPCが消費者と相対契約を結びます。この場合、消費者とはC&I(Commercial & Industry)と呼ばれる大口顧客のことです。相対契約で「SPCが消費者の電力使用量を削減すること」「消費者がSPCに対価を支払うこと」が定められます。SPCの長期のキャッシュフローを考えると、最初に蓄電池の導入コストがあり、相対契約の期間は消費者から収入を得ます。

しかし、消費者からの収入のみでは蓄電池の導入コストを回収できません。そのため、カリフォルニア州では政策的な後押しにより、他の収入を得ることができるようになっています。

政策による後押し収入とは以下の通りです、
・GIP(Self – Generation Incentive Program)という補助金
・蓄電池の調達義務があるIOU(カリフォルニア州の送配電事業者)との相対契約による収入

まとめ

蓄電池とプロジェクトファイナンスについて解説してきました。以下、まとめになります。

・プロジェクトファイナンスとは、キャッシュフロー・ファイナンスの一種
・融資に対する返済の原資もプロジェクトから発生するキャッシュフローに限られており、事業を行う企業やスポンサーへの債務保証を求めない
・金融機関が蓄電池をプロジェクトファイナンスによる融資対象として見る場合、相対契約による収入の方がリスクは低いため取り組みやすい

プロジェクトファイナンスは主に資源・電力・インフラ分野を対象とし、10~30年といった長期の経済耐用年数・償却期間を必要とする大型設備向けの融資が適しています。そのため、Standaloneの蓄電池でプロジェクトファイナンスが組成されているものは、長期契約に基づく収入があるものです。この機会に蓄電池のプロジェクトファイナンスに携わってみてはいかがでしょうか。

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蓄電池コンシェルジュは、蓄電池を購入しようとお考えの方々に、蓄電池を活かした暮らしをするための上質なコンシェルジュサービスをご提供しております。再生可能エネルギーに理解のある方々にご利用頂くことが「脱炭素社会」実現へのカギとなります。蓄電池コンシェルジュは、文化的、社会的資産を後世に引き継ぎ、社会的責任としての取組みのみならず、日本の人口減少と地球温暖化の危機を救うためのお手伝いをさせて頂いております。

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蓄電池コンシェルジュ代表
根上 幸久

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