蓄電池のロードマップとは? 2030年のストレージパリティが求められるまでの蓄電池のロードマップについて!

現在、ガソリン車並みの走行機能を備えた電動自動車開発が2030年に実現することを目的に、リチウムイオン電池を超える「革新型電池」の開発が求められ、蓄電池産業が新たな段階を迎えています。中でも、多角的な視点から今後の二次電池産業についてまとめたNEDOによる資料「二次電池技術開発ロードマップ」は、 蓄電池業界にとっての重要な指標となっています。今回は2030年のストレージパリティが求められるまでの蓄電池のロードマップについて解説します。

2012年「蓄電池戦略」

2012年に経済産業省の蓄電池戦略プロジェクトチームによって「蓄電池戦略」が策定されました。この戦略で策定された内容は以下の通りです。

・蓄電池のコスト低減等による普及加速化に向けた課題・今後実施すべき点を整理
・2020年に世界全体の蓄電池市場規模(20兆円)の5割のシェアを獲得することが目標
・電力系統用大型蓄電池、定置用蓄電池、車載用蓄電池の3つの分野について整理

3つの分野の当時の今後の取り組みや課題は以下の通りです。

①電力系統用大型蓄電池
●代替手段である揚水発電とのコスト差
●代替手段である揚水発電の容量の限界
●電力会社、再生可能エネルギー発電事業者、蓄電池メーカー等による最適な設置方法の実証

②定置用蓄電池
●鉛電池とリチウムイオン電池の価格差
●中国のレアアース輸出規制によるニッケル水素電池の供給制約
●技術基準及び認証制度の整備
●リチウムイオン電池の安全性の確立
●リースを活用した販売ビジネスの促進
●日本電機工業会(JEMA)による技術基準の策定
●リチウムイオン電池の国内安全性規格の策定

③車載用蓄電池
●航続距離の向上とコスト低減
●設備投資や研究開発の促進
●V2H(Vehicle to Home)の普及
●水素供給設備関連の規制見直し
●航続距離の目標設定
●V2H導入のための支援策や安全性等への認証制度の策定

2008年「NEDOの二次電池技術開発ロードマップ」

NEDOによって策定された二次電池技術開発ロードマップとは、蓄電池の部門ごとに達成すべき目標を、年代に分けてに示したロードマップのことです。

NEDO(New Energy and Industrial Technology Development Organization)とは、新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称で、国立研究開発法人の1つです。日本の再生可能エネルギーの研究開発を担う独立行政法人であり、新エネルギーを軸として「持続可能な社会の実現に必要な技術開発の推進を通じて、イノベーションを創出する」ことを目的に、2003年10月1日に設立されました。

このロードマップは日本の二次電池関連産業が国際競争力を維持・向上させていくことを目的に策定されています。
2008年の「NEDO次世代自動車用蓄電池技術開発ロードマップ」では将来の普及が期待される自動車用二次電池や電池材料について、2010年は民生用、産業用を追加して、二次電池に要求される特性を年代毎に示し、開発のスピード感、問題意識を共有してきました。
2013年はこれまで策定してきたロードマップを再編し、定置用、自動車用及び電池材料を対象としたロードマップとなりました。

2013年「NEDOの二次電池技術開発ロードマップ」

2013年の二次電池技術開発ロードマップでは、定置用二次電池に関してコスト及び寿命を指標に、自動車用二次電池に関して、重量当たりのエネルギー密度及び出力密度、コスト、寿命を指標に目標設定を行いました。

2013年の二次電池技術開発ロードマップ内の2030年における目標設定段階では、定置用蓄電池に関して具体的な金額目標は設定されておらず、「更なる低コスト化を期待」といった目標設定がなされました。

今回NEDOによって策定された新たなロードマップのポイントは以下の通りです。

充実化された定置用二次電池に関する内容

1つ目が「充実化された定置用二次電池に関する内容」です。

今回、定置用二次電池の用途別にコスト及び寿命目標が明確に設定され、定置用二次電池に関する内容が充実化されました。
定置用二次電池に関する充実した内容は以下の通りです。

・用途毎にコスト及び寿命目標を設定
・種々の二次電池の特長や技術課題を記載した新たなロードマップを策定
・今後の技術開発の方向性を明確化
・自動車用二次電池の目標を最新の情報を基に更新

自動車用二次電池についての大幅な改訂

2つ目が「自動車用二次電池についての大幅な改訂」です。

定置用とは別に自動車用についても最新の情報をもとに性能やコストなどの目標が見直されており、電池材料についても新たな材料の追加や材料特性データの更新を行うなど、大幅な改訂が行われています。重量当たりのエネルギー密度及び出力密度、コスト、寿命を指標に目標設定が行われています。

プラグインハイブリッド自動車、電気自動車の普及拡大を目指し、自動車用二次電池について記載された内容は以下の通りです。

・最新情報に基づき性能及びコスト目標を更新
・寿命目標も新たに記載
・最新の研究成果を反映し材料マップを更新

リチウムイオン電池の材料マップ及び革新マップの更新

3つ目が「リチウムイオン電池の材料マップ及び革新マップの更新」です。

リチウムイオン電池の材料マップ及び革新電池のマップについて更新された情報は以下の通りです。

・新たな材料の追加
・材料特性データの更新などについて最新の研究成果を反映

2018年「第5次エネルギー基本計画」

第5次エネルギー基本計画とは、国の中長期的なエネルギー政策の方向性を示すための計画のことです。

従来のエネルギー政策では以下の項目を満たすことが求められてきました。

「3E+S」
・安定供給(Energy Security)
・経済効率(Economic Efficiency)
・環境適合(Environment)
・安全性(Safety)

その後、第5次エネルギー基本計画が策定され、従来の「3E+S」に詳細な目標を加えた、以下のような高度目標が設定されました。

・安定供給:技術自給率とエネルギー選択肢の多様性確保
・経済効率:日本の産業競争力強化へつなげる
・環境適合:脱炭素化への挑戦
・安全性:安全の革新を図る

第5次エネルギー基本計画では、2030年と2050年の指針も提示しており、蓄電池に関して以下のような指針が立てられています。

2030年:導入を促進すべく低コスト化に向けた取り組みや技術開発等を進める
2050年:地域とエネルギーセキュリティの双方の観点から、開発を主導していく

蓄電池のストレージパリティが求められている

「蓄電池戦略」「二次電池技術開発ロードマップ」「第5次エネルギー基本計画」を見て、常に示されてきたことは「各省庁から蓄電池の重要性とコストダウンの必要性」です。

そのためには、蓄電池のストレージパリティ達成が求められます。

「ストレージパリティ」とは「蓄電池を導入しないよりも、蓄電池を導入したほうが、経済的メリットがある状態」のことです。

蓄電池と関係が深い太陽光発電についても同様に、「グリッドパリティ」と呼ばれるものがあります。
「グリッドパリティ」とは太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電力のコストが、電力会社から購入する電気代と同等、またはそれ以下になることです。

太陽光発電は年々太陽光発電設備のコスト削減が進み、電力会社から買うことと同等もしくはコストを抑えて電力を調達できるようになって来ました。
グリッドパリティにより、国の制度に頼らなくても太陽光発電の普及が進んでいくかもしれません。

蓄電池も太陽光発電と同様にストレージパリティを達成することが求められています。
しかし、現時点では蓄電池の価格はまだ高額であるため補助金を設定し、導入を促進しています。

2020年に出された経済産業省「ストレージパリティの達成に向けた価格水準と導入見直しについて」によると、蓄電池が2030年にストレージパリティを達成するために必要な価格水準は以下の通りです。

産業用蓄電池の場合、5万円/kWh(投資回収8年)

以下の条件をもとに、蓄電システムによるピークカット効果での収益と、蓄電システムの導入による年経費を比較し、投資回収できる価格水準を計算しました。

電力プラン:中国電力「業務用電力プラン」1,575円/kWh(基本料金)
蓄電池容量:3時間率
投資回収年数:8年
ピークカット効果による年間収益:18,900円/kW

現在の国内における業務・産業用蓄電システムの価格水準は9.8万円/kWhです。そのため、ストレージパリティ達成の価格水準である5万円/kWhとは4.8万円/kWhの差があります。
この差を埋めるにあたって重要項目となるのは、全体価格の半分以上を占める電池部分です。

この場合、考えられる電池部分とは「鉛電池」と「リチウムイオン電池」です。

●鉛電池のメリット
・寿命がとても長い
・電気を繰り返し使ってもバッテリーが傷みづらい

●鉛電池のデメリット
・大きくて重い
・劣化を感じやすい
・反復充電に弱い

●リチウムイオン電池のメリット
・軽量で小型
・劣化しづらく繰り返し充電、放電が可能

●リチウムイオン電池のデメリット
・充電が満タンの状態で放置すると劣化しやすい
・温度変化に弱い
・価格が高い

電池部分の価格を下げることだけを考えると、「鉛電池」を利用すれば良いように思えます。しかし、EV車などの普及を考えると、今後「リチウムイオン電池」は必要となってくるでしょう。
そのため、定置用の大規模な蓄電システムには鉛電池を使用し、EV車などの移動が伴う小型蓄電システムにはリチウムイオン電池を使用するといったように適材適所で使い分けながら、リチウムイオン電池の価格低減に向けた取り組みを行っていく必要があります。

まとめ

2030年のストレージパリティが求められるまでの蓄電池のロードマップについて解説してきました。以下、まとめとなります。

・NEDOの「二次電池技術開発ロードマップ」とは、蓄電池の部門ごとに達成すべき目標を年代に分けて示したロードマップのこと
・2013年「NEDOの二次電池技術開発ロードマップ」では、これまで策定してきたロードマップを再編し、定置用、自動車用及び電池材料を対象としている
・これまでのロードマップに示されてきたのは「各省庁から蓄電池の重要性とコストダウンの必要性」であり、実現には蓄電池のストレージパリティ達成が求められている

蓄電池がより一般的に普及するために必要となってくるのが蓄電池の重要性の浸透とコストダウンの必要性であり、2030年までにストレージパリティ達成が求められます。そのため、これからも蓄電池のロードマップは再編され、時には新しいものが策定されていくでしょう。

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蓄電池コンシェルジュ代表
根上 幸久

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