BCPやZEBなどの防災対策の観点で電源の確保は重要なポイントと言えます。災害による停電時の事業継続計画は、企業だけでなく医療機関や介護施設などでも重要です。医療機関や介護施設などの場合、停電による健康管理や生命維持のサービス継続ができなければ、命の危険に繋がります。特に生命維持装置などを利用している場合は、非常用電源の確保が必要不可欠といえるでしょう。非常時に電源確保する方法は様々ですが、手軽に導入できるのが蓄電池です。
しかし、蓄電池は設置条件が適さない場所に無理やり置いてしまうと寿命や性能に悪影響を及ぼし、故障や性能低下の原因になります。蓄電池に適した設置環境を知り、最大効率でエネルギー生成させ、システムの稼働年数を延ばすためにはどうしたらいいのでしょうか。その手助けとなる存在が蓄電池収容箱です。
今回はBCPの強い味方になる蓄電池を、あらゆる自然災害から守り、継続稼働可能な状態をサポートする蓄電池収容箱について解説します。
蓄電池システムを会社に設置するメリット
蓄電池システムを会社に設置するメリットは以下のとおりです。
- 事業継続計画(BCP)における通信インフラや公共施設のバックアップ電源強化
- 電気料金の安い夜間に電力を蓄電し、日中に使用することで電力コストを削減
- ZEBにおけるオフィスビルを中心とした省エネルギー化
- 太陽光発電システムとの組み合わせなど、クリーンエネルギー最大限活用による企業ブランドの向上と電力系統の安定化
ZRBとは
ZRB(Net Zero Energy Building)とは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物のことです。
建物で消費するエネルギーとは、発電所などから送られてきた電気やガス、熱などのエネルギーを以下の形で消費することです。
- 空調
- 換気
- 照明
- 給湯
- エレベーター
- OA機器など
人間が活動している限り、建物の中のエネルギー消費量を完全にゼロにすることはできませんが、エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることができます。使用エネルギーを極力減らし、なるべく自分の建物でエネルギーを創り出すことでZEBに近づいていきます。
(従来の建物で必要なエネルギー)=(省エネによって減ったZEBで使うエネルギー)+(ZEBで創るエネルギー)
事業継続計画(BCP)とは
BCPとは、自然災害やテロ、システム障害など危機的な状況に遭遇した場合でも、重要な業務を途切れずに継続し、途切れたとしても早期復旧できる方策を用意し、損害を最小限に抑えるための戦略計画書です。
- 通信インフラなどの情報伝達手段確保:社員とその家族の安否確認、取引先との連携、顧客への被害状況の報告などを行うため
- 安全の確保と復旧活動の効率化:夜間における対策本部の運営や復旧活動のために、より照度の高い投光器などの照明器具等の利用を想定する場合には、稼働可能な容量の電源確保が必要
BCPについては、以下の記事を参考にしてくださると詳しい内容がわかります。併せて御覧ください。
蓄電池は不適切な場所に設置すると危険
蓄電池は災害時の非常用電源として役立ち、企業の防災・BCP対策としても有効なツールです。
しかし、蓄電池は以下のような弱点があり、不適切な場所に設置すると、劣化や保証対象外になる原因や、火災などの事故につながる危険性があります。
- 災害や気候変動などによる水没:内部に水が入ると回路がショートし、火災に発展する可能性や有害なガスを発生させるなど危険
- 直射日光:長時間当たりすぎると高温状態になり、熱暴走を起こして発火事故の原因になり、寿命が短くなる
- 高温多湿:換気が十分にできていないと蓄電池の排熱と相まって高温多湿になりやすいく、部品が錆びて劣化や故障のリスクが高くなる
- 塩害・重塩害地域:塩分を含んだ雨風によって、電子機器の表面・内部に腐食やサビが発生し、機器内部リスクが高くなる
- 低温度:-10℃あるいは-20℃以下では性能・エネルギー効率劣化が起こり、最大充電容量の低下が早くなる
- 積雪地域:温度条件をクリアしても、積もった雪が蓄電池の排熱を妨げてしまう
- 設置場所が限定される:搬入経路やメンテナンスに必要なスペース、平らで蓄電池の重さに耐えられる床、分電盤に配管できる設置位置など設置場所が限定される
このような弱点があっても蓄電池が継続稼働できるようサポートするのが、蓄電池収容箱です。
蓄電池収容箱とは
蓄電池収容箱は屋内・屋外用があり、外的要因から蓄電池を守るために収容保管する箱型設備です。内部には電源、空調、セキュリティー機能があり、外部にはサビなどの経年劣化から設備を保護するために特殊塗装などを施しています。
塩害、砂害、積雪、暴風、豪雨、地震、台風、津波などの自然災害が来ても機能停止せず、蓄電池の継続稼働が可能な状態にすることを目的としています。そのため、収容箱の許容荷重や耐震性能の品質が蓄電池システム構築時の大きな課題となります。
外部環境から蓄電池を守るために求められるもの
外部環境(弱点)から蓄電池を守るため、以下のようなものが求められます。
- 蓄電池の仕様や搭載質量、および設置環境に適した柔軟な設計
- 熱計算や解析技術により、直射日光による温度上昇を考慮した対策
- 耐震試験、日射試験、JIS C4620に規定の防水試験など、様々な環境を想定した性能試験の実施
- 過酷な状況でも継続稼働するために、構造管理、膜厚管理、防水管理など、構造段階から完成するまでのすべての工程で品質を確認する作業など
蓄電池収容箱に求められる蓄電池保護機能
蓄電池収容箱に求められる蓄電池保護機能の一部は以下のとおりです。
- 防水:水浸入による漏電を発生させないため、どのような環境化でも完璧な防水を施工
- 地震対策:地震が発生しても、箱の中の蓄電池(精密機器)に影響がでない設計
- 熱:高温は火災の原因になるので、箱の内部に扇風機を入れるなど、温度上昇する工夫をする
蓄電池収容箱の種類
蓄電池収容箱は設置環境や蓄電池の大きさ、仕様などによって使い分け、設計、製造されます。蓄電池収容箱の種類は以下のとおりです。
コンテナ型
コンテナ型は、熱・紫外線、積雪、塩害、砂・埃、地震、暴風・豪雨などのあらゆる外的要因から保護する強固で頑丈な構造と輸送上の利便性から、蓄電池やサーバー機器などの収容箱として需要が増えているの蓄電池収容箱です。
コンテナとは、海上輸送での使用や長期利用を目的として一定の規格に基づいてつくられた箱状の容器のことです。
既存コンテナの構造やパーツの流用をベースに設計をするため、大きさは決まっていますが内部は自由に設計でき、フルオーダーのキュービクル型よりも低コストで製造が可能です。
参照:株式会社 三翠社
キュービクル型
電力会社の変電所から供給される高電圧電気をビルや住宅で使用できる低圧に変圧する設備に必要な各種機器を鉄箱に収納したパッケージのことを「キュービクル式」といいます。
そのため、蓄電池収容箱の「キュービクル型」は、蓄電池や様々な精密機器を収容した鋼板で造られた箱のことを指します。
参照:株式会社 三翠社
シェルター型(局舎)
シェルター型は床強度で設計されているため、大容量のニッケル水素電池やNAS電池、リチウムイオン電池などを安全に設置できる収容箱です。
屋根や壁面は熱伝導率が非常に小さく高断熱なパネルで構成されているため、結露が生じず、日射による温度上昇を防ぐなど、最適な室内温度と環境を保ち、蓄電池を長持ちさせます。耐風圧、防水、耐積雪、耐震性能など、あらゆる自然災害から守る構造になっています。
参照:北村製作所
その他の蓄電池収容箱
- オフィス環境にマッチする屋外用・屋内用蓄電池収納ラック
- 使用環境や収納機器により最適なサイズや構造が異なる蓄電池収納キャビネット(キャビネット内の寒冷・熱対策として取り付ける設備例:換気扇、ルーバー、クーラ、遮光板など)
条例キュービクルとは
条例キュービクルとは、東京消防庁の基準で定められた火災予防条例に準拠した、蓄電池設備容量が4,800Ah・セル以上の蓄電池収容箱のことです。
蓄電池設備容量は定格容量(Ah)×セル数×数量で求めることができます。たとえば、
- 鉛蓄電池(40Ah、12V)の蓄電池30台設置の収容箱
- 鉛蓄電池の公称電圧は1セル当たり2V。なので、12V÷2V=6セル
- 蓄電池設備容量は、40Ah×6セル×30台=7,200Ah・セル
この蓄電池設備容量は4,800Ah・セル以上なので、火災予防条例の対象となります。
火災予防条例に準拠した蓄電池収容箱の条件
火災予防条例に準拠した蓄電池収容箱の条件は以下のとおりです。
- 蓄電池設備容量が4,800Ah・セル以上
- 収容箱内側の板厚が2.3t以上の鋼板
- 外箱と換気口などに、直径 10mmの丸棒が入るすき間がないほど密閉している
- 蓄電池を設置する際の保有距離の確保(点検面:60cm・壁面からの距離:10cm)
- 自然換気口には金網、換気扇に関しては防火ダンパー付きを取り付け
- 自然換気口による換気が無理な場合、機械式換気設備を設置
- 扉は防火扉でストッパーはドアクローザー
- 温度検出設備と消火設備の取り付け
- 水素ガスの換気設備や、ガス漏れ検知器、防爆仕様の付帯設備による危険防止対策
- 希硫酸による可燃物の酸化に対し、床面に耐酸性塗料を塗布するなどの酸化防止対策
- 蓄電池収容部分の面積合計は外箱面積の1/3以下
- 自然換気口の開口部面積合計は外箱の一つの面と同じ
- 充電装置などの収容部分面積の合計は外箱の面積の2/3以下など
まとめ
蓄電池収容箱について解説してきました。以下まとめになります。
- BCP対策として有効な蓄電池は設置条件が不適切な場所に無理やり置いてしまうと寿命や性能に悪影響を及ぼし、故障や性能低下の原因になる
- 蓄電池収納箱とは、あらゆる外部環境によって、蓄電池が機能停止せずに継続稼働が可能な状態を目的とした箱型設備
- 蓄電池設備容量が4,800Ah・セル以上の蓄電池収容箱は、東京消防庁の基準で定められた火災予防条例の対象になる
いざというときに強い味方になってくれる蓄電池は精密機械なので、外部環境的な弱点が多くあります。蓄電池収納箱は蓄電池をそういった弱点からしっかり守ってくれるだけでなく、効率よく稼働する環境を保ってくれるため、長寿命化にも貢献してくれます。
台風や地震による大停電など、災害はいつ発生するかわかりません。外部環境のせいで蓄電池の効率が下がっているなどの悩みがある方はぜひ、いざという時事業計画に支障がないようこの機会に蓄電池収容箱導入を検討してみてはいかがでしょうか。