日本では、再生可能エネルギーの普及を加速させることを目的として2012年7月1日に再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT制度)が始まりました。2022年度よりこのFIT制度に加え、市場連動型となるFIP制度が導入されます。
国は、FIT制度に加え、2022年度より再生可能エネルギー電源を競争電源と地域活用電源に分け、大規模太陽光や風力など競争力のある電源への成長が見込まれるものは競争電源としてFIP制度に移行させます。そうなると、制度移行対応が困難な小規模発電事業者が出てきます。それを助ける動きをするのがアグリゲーターです。今回は卒FITとアグリゲーターについて解説します。
アグリゲーターとは
アグリゲーターとは、需要家の電力需要を束ねて効果的にエネルギーマネジメントサービスを提供するマーケターやブローカー、地方公共団体、非営利団体などのことを指します。自ら電力の集中管理システムを設置し、電力消費量を把握して節電を支援するエネルギー管理支援サービスで、電力売買、送電サービス、その他のサービスの仲介を行っています。
日本では2012年ごろからアグリゲーター事業が活発化しはじめました。電気事業法上、アグリゲーターは適格要件が定められ、ライセンス制となっています。
元々、電力の需要と供給の関係は、需要量に応じて発電機などの整備を行って供給量を確保してきました。しかし、経済発展やそれに伴うエネルギーの枯渇が問題になるにつれ、電力など、都市の生活を支える設備やエネルギーをすべてITの活用によって統合し、高効率化を図る「スマートシティ」という考えが広がり始めました。
スマートシティによって電力の管理方法も、元来の総需要に対して膨大な供給量で対応する管理方法から、HEMSやBEMSなど各需要家による分散型エネルギー管理システムに変化しました。それに伴って、各需要家の電力供給状況によって需要と供給のバランスをとるDR(デマンドレスポンス)が普及し、アグリゲーターという事業の重要性が増してきました。
アグリゲーターの仕事は3つです。
①ピーク時の電力需要制限
②新たな電力需要の創出
③ネガワット取引
ピーク時の電力需要制限
大型の発電施設では、原則大量の電気を貯めておくことができません。そのため、電力需要のピークに備え、ピーク時に対応できる規模の設備を用意しています。しかし、そうなるとピーク時以外は発電の無駄が生じてしまいます。
アグリゲーターは一般家庭や事業所など、電気の需要家に節電を呼びかけ、需要を低下させます。需要制限が成功すれば、発電施設はピーク時に合わせて規模を拡大する必要がなくなり、無駄な発電も軽減されます。これを「ピーク時の電力需要制限」といいます。
新たな電力需要の創出
太陽光発電などの再生可能エネルギーによる発電は、需要がなければ普及は見込めません。日照時間の長い夏季など、再生可能エネルギーが多く発電できた時、アグリゲーターは需要家と発電事業者を繋げる事で需要を生み出します。これを「新たな電力需要の創出」といいます。
ネガワット取引
ネガワットとは、ネガティブ(負)とワット(電力)を組み合わせた造語です。節電された電力、もしくは発電されたのち消費されず余った電力を意味します。
アグリゲーターはネガワットを集め、電力会社に売却する事でその報奨金の一部を節電した需要家や、発電してネガワットを創出した事業者に還元します。太陽光発電による余剰電力もネガワット取引の対象であり、今後の太陽光発電の余剰電力売買システムの中核となっていくかもしれません。
アグリゲーターの役割
アグリゲーターの役割は「電力・需要のバランスを最適化し、安定供給を実現すること」です。
DR
DR(Demand Response)(需要応答)とは、需要家側エネルギーリソースの保有者もしくは第三者が、そのエネルギーリソースを制御することで、電力需要パターンを変化させることです。
DRは2つに区分されます。
①需要制御パターンによって需要を減らす(抑制する)「下げDR」
②需要制御パターンによって需要を増やす(創出する)「上げDR」
③DRの際に送電線の電力を微調整して需要量を細かく上げたり下げたりして、電気の質を安定に保つ「上げ下げDR」
更に下げDRは2つに区分されます。
①電気料金型(電気料金設定により電力需要を制御する事)
②インセンティブ型(電力会社やアグリゲーター等と需要家が契約を結び、需要家が要請に応じて電力需要の抑制等を行う事)
ネガワット取引は、インセンティブ型の下げDRのことを指します。企業だけでなく、一般家庭などの小規模な需要家もアグリゲーターと契約していれば、下げDRに参加できるのです。
上げDRは太陽光発電のように発電量が安定していない場合に実施されるDRです。発電量が極端に大きくなった場合、電力の需要を増やし、需要と供給のバランスを取ります。契約において上げDRをすることをポジワット取引と言います。
VPP
アグリゲーターの電力需要の調整や必要に応じた電力供給にはIoT(Internet Of Things)の技術が活用されています。VPP(Virtual Power Plant:仮想発電所)とは、いくつかの小規模な発電施設がIoTによって集約され、一つの大きな発電所のように機能するという考え方です。
VPPにおいてアグリゲーターの大きな役割は2つです。
①リソースアグリゲーター
②アグリゲーションコーディネーター
各需要家と契約し、電力リソースの調整を行う立場を「リソースアグリゲーター」と呼び、小型で分散している太陽光発電のような小規模電源を束ねる役割を担います。リソースアグリゲーターが調整した電力を取りまとめ、配電事業者、小売電気事業者と電力取引を行うのが「アグリゲーションコーディネーター」です。
アグリゲーターによるDRが機能すれば、供給量が安定しない太陽光発電の安定的な利用と普及実現において、電力需要と供給のとても良いバランスが維持されます。よって、アグリゲーターは太陽光発電において、重要な役割を果たすといえるでしょう。
卒FITとアグリゲーター
卒FITとは、2009年11月から開始した、余剰電力の固定価格買取制度(FIT制度)(Feed-in Tariff)の買取期間が満了した案件を指します。電気事業者は家庭や事業所などの太陽光発電からの余剰電力を一定期間、一定価格で買い取ることを義務付けられていました。住宅用太陽光発電の余剰電力は固定価格での買取期間が10年と定められており、制度開始から10年が経過した2019年11月以降、卒FITが始まりました。卒FITは2023年までに約165万件、670万kWに達する見込みです。
卒FIT後の太陽光発電による電力は、相対・自由契約による余剰電力の売電か蓄電池やオール電化等と組み合わせた自家消費に移行していっています。これにより、卒FITは小売電気事業者やアグリゲーターにとっては、新たな供給力と需要を獲得するビジネスチャンスとなりました。
日本の企業でも、株式会社リミックスポイントはエネルギー関連支援実績を多数持つ日本アイ・ビー・エム株式会社の支援の元、卒FITにより大量に発生する余剰電力を集約し、活用する新たなエネルギーマネジメントサービスの策定を開始しました。仮想通貨関連のブロックチェーン技術やAI等の最新技術を活用したアグリゲーターになることを目指し、小売電気事業をさらに強化拡大し、多くの事業者に対してエネルギーを通じた経営支援を実現しています。
卒FIT後に求められるアグリゲーションビジネスの発展
卒FITに対し、大手電力や新電力、電機メーカーなどが買い取りの様々なサービスを提供しています。FIT制度下の再生可能エネルギーは、一般送配電事業者が電力の需要量と供給量の差分が大きかった場合、一般電気事業者にペナルティ料金を支払う必要があり、再生可能エネルギーの需給管理を行うノウハウを有する再エネ発電事業者や小売電気事業者は多くはありません。
しかし、卒FITの増加に伴い、再生可能エネルギー事業者も需給管理の責任を行う必要が出てきます。大規模な再生可能エネルギー事業であれば、このような需給管理を自ら行うことも考えられますが、小規模な再生可能エネルギー事業については、それらを蓄電池等の分散型リソースと組み合わせて需給管理を代行するといったようなアグリゲーションビジネスの発展が重要であると考えられています。
また、アグリゲーターは需給管理以外にも様々な価値を提供することが可能です。たとえば、再生可能エネルギーの主力電源化に伴い、欧州等の先進的な電力市場では、アグリゲーターが需給調整市場等での取引を通じて柔軟な調整力の重要性の高まりを提供し、再エネの主力電源化を下支えしています。世界的にも柔軟な調整力のニーズは2040年までに大きく増大することが予想されていますが、現在の市場設計のままでは電源、送配電設備、DR、蓄電池などの必要な投資を十分に呼び込むことができない可能性があります。
卒FIT後に来るのはFIP制度
再生可能エネルギーはFITによって普及拡大を後押しされてきましたが、2020年に抜本的な制度見直しが行われ、FITよりもコストダウンを促すFIP(Feed-in Premium)への制度移行が行われると言われています。FIPとは、太陽光発電などの再生可能エネルギーで発電した電気を市場価格にプレミアムを付けて買い取るものであり、再生可能エネルギーの自立に向けた制度です。FITからFIPへの制度転換はドイツやイタリアで採用されており、再生エネルギー価格の低減する効果をあげています。
FIPはFITと違い、発電事業者が市場取引や相対取引によって電力を販売しなければいけません。太陽光や風力など、希少や時間帯によって発電量が変化する変動型電源であっても蓄電池などで需要調整を行い、計画に基づいた安定的な電力供給をしなければいけません。
FIP移行の事業変化は小規模発電事業者が単独で対応するのは大変難しいです。そのため、アグリゲーターが複数の分散したエネルギー源を遠隔で制御・集約し、VPPとして運用するアグリゲーションビジネスが注目を浴びています。
まとめ
卒FITとアグリゲーターについて解説してきました。以下、まとめになります。
・アグリゲーターの役割は「電力・需要のバランスを最適化し、安定供給を実現すること」
・卒FITからFIPに移行してドイツとイタリアは成功している
・FIP導入により事業用太陽光発電設備などのアグリゲーション市場は拡大する
ドイツでは、2012年により段階的にFITからFIPに移行した事によって、アグリゲーターが成長すると同時に、制度移行対応が困難な小規模発電事業者を保護する役割を担いました。VPP技術は、太陽光発電等の再エネ発電や蓄電池などをネットワークでつなぎ、あたかも1つの発電所のように機能させる仕組みです。アグリゲーションビジネスの対象は卒FIT設備であり、新規導入量の7割以上を「競争電力」候補の事業用太陽光が占めることから、FIP導入により事業用太陽光発電設備などのアグリゲーション市場は拡大すると見込まれています。これからのアグリゲーションビジネスに増々目が離せませんね。