2011年の東日本大震災以降、社会全体のエネルギーに対する考え方が大きく変化しました。
非常時に安定した電力を供給する蓄電池システムを導入する工場や一般企業、一般家庭が増えてきたのです。脱炭素社会を目指す観点からも太陽光や風力といった自然エネルギーを電力に変換する研究に大きな注目が集まっています。今後は再生可能エネルギーを蓄電池に貯蓄し、自動車や生活エネルギーにしていくことが課題となっていくでしょう。
今回はより蓄電システムについて理解を深めるために、さまざまな用途について詳しく解説していきたいと思います。
家庭用蓄電池の基本
家庭用蓄電池は、太陽光発電と併用して自家発電・自家消費し、日常生活を助けるために導入している場合がほとんどでしょう。
他に、地震などの災害時に電気・水道・ガスが止まり、復旧するまでの間を埋めるものとして導入される場合があります。
導入目的によって求める蓄電池の容量は異なってきます。
非常用電源として導入したのに、いざ使おうとしても容量が少なく、すぐに電力がなくなってしまうという状態を避けるためです。接続したい機器の合計消費電力が蓄電池の最大出力を上回らないようにする必要があるので、あらかじめ最低限使う電気機器の合計消費電力を把握しておきましょう。
使用電力量(Wh)は消費電力(W)×使用時間(h)で求める事が出来ます。
蓄電池のメリット・デメリット
蓄電池のメリットは5つ挙げられます。
・深夜に安い電力を貯蓄し日中に使う事で電気代削減
・災害時、停電時も安心
・太陽光発電で作った電気を貯蓄できる
・ピークシフトに貢献できる
・電気自動車との連携
蓄電池のデメリットは4つ挙げられます。
・初期費用が高い
・使用環境や使い方によっては劣化が早くなる
・貯蓄できる量は決まっている
・条件を満たした十分な広さのある設置スペースが必要
経済性モードとクリーンモード
経済性モードとは、まだ固定価格買取制度が残っている時の使い方で、経済性を最優先したモードです。
固定価格買取制度とは、太陽光発電で余った電気を10kW未満は10年間高額で買い取ってもらえる制度のことです。
太陽光発電で作った電気を家庭で消費し、余剰電力を売電します。
蓄電池は深夜の安い電気を電力会社から蓄電し、太陽光発電の発電量が家庭の使用量より少ない場合や発電していない時間帯に蓄電した電気を使います。
経済性を最優先したモードで、固定価格買取制度がまだ残っているときの使い方になります。
クリーンモードとは、固定価格買取期間が終了した後の自給自足モードです。
太陽光発電で作った電気を自家消費し、余剰電機は蓄電池に充電し、電力会社から極力電気を買わないように、日没後蓄電池の電気を使っていきます。
固定価格買取制度終了後の売電単価は10円以下になると想定されています。
日中の電気代は34円/kWh程度ですので、売電するより電力を貯蓄する方がいいでしょう。
蓄電池の用途
日本には発電設備、送電設備、変電設備、配電設備、需要家設備など10の電力設備があります。この設備全体のことを電力系統、または系統と呼びます。
この電力系統に対しての対策が少なかったため、東日本大震災では電力会社からの送電が途切れてしまい、コンピューターやシステムが動作せず、行動が制限されてしまうという事態が多発しました。
この失敗を見つめ直し、電力系統をより効率的に利用すべく注目されているのがピークシフトです。
ピークシフト
ピークシフトとは、電力需要のピーク(13時~16時)に使用電力を押さえたり、時間帯を避けて電気を使用することです。
電力の消費を抑えるために、企業の場合はピークの時間だけノートパソコンのコンセントを抜いてバッテリーのみで動かしたりなどしています。ピークシフトの設定時間になると自動的にコンセントからバッテリーに切り替えて、残量が少なくなるとコンセントに戻すというピークシフト機能を取り入れているパソコンもあるそうです。
国の場合、電力系統強化のために、北海道、東北沿岸部に送電線を増やす計画を立てています。それだけでなく、太陽光や風力など、再生可能エネルギーは安定した電力が得られないので、大型の蓄電池の導入などの整備事業も進めています。
蓄電池を利用したピークシフト
蓄電池があれば電力会社から供給される電気の使用時間をずらすことができるので、電力需要のピークの山を減らすことが可能です。
電気会社は電気の需要に合わせて火力発電や水力発電など調整用の発電設備を動かしたり止めたりしています。発電設備は動かしたり止めたりしない方が稼働効率がよくなるので、電力需要の山と谷を減らす事によって無駄なエネルギーを使う必要がありません。
蓄電池で電力需要のピークの山と谷を減らす事は、日本のエネルギー事情に貢献することに他なりません。
ピークシフトとピークカットとの違い
ピークシフトは電気をあまり使わない時間帯に電気を貯めることで、電力需要がピークに達する時間帯から夜間や休日などの緩慢な時間帯に移行させることであり、蓄熱、エコキュートや蓄電システムなどによって実現可能です。
夜間にバッテリーを充電しておいて、日中にそれを使い電力を消費しないようにする蓄電システムはピークシフトの代表的な使い方でしょう。
それに対しピークカットとは、最も使用電力の多いピークの時間帯の使用電力を削減し、使用を控えることや省エネルギー機器・再生可能エネルギー設備を用いることで電力の使用量そのものを低減させる取り組みのことです。
最も使用電力の多いピークの時間帯の使用電力を削減し、使用を控える事は、CO2排出量の多い火力発電所の発電力の減少につながります。これは地球温暖化対策になった上に、最も単価が高い時間帯の電気代削減、基本料金の削減にもなります。
ピークカットで基本料金を安くできる
電気の基本料金は以下によって求められます。
・基本料金+電力量料金+消費税
基本料金は以下によって求められます。
・単価×契約電力(最大デマンド)×力率割引
単価は契約時に決まるので、最大デマンドが基本料金を決定する上で非常に重要になります。
最大デマンドとは、過去1年間で最も電気を使った時間帯(30分間)の使用電気量のことです。基本料金はその月に使用した電気量ではなく、過去1年間で最も電気を使った時間帯の使用量によって算出されます。
たとえば、12月の基本料金を計算する場合、もし12月の最大使用量が200kWだとしても、過去1年間の最大値が過去デマンドになるので、最も電気を使った時間帯が1月の500kWだったとすると、500kWを基準に基本料金は算出されます。
つまり、ピークカットで電力の最大使用量を下げる事で、この最大デマンドを下げることが可能ですので、使用電気量だけでなく基本料金も下げる事が可能なのです。
太陽光発電を導入すれば、昼に使用する電気を自分で発電し自家消費できるので、電力会社から購入する電力を抑え、ピークカットにつなげることができます。
次世代エネルギー
化石燃料は車のガソリンや家庭で使用するガスなどに使用されます。大昔の動植物の死骸が地中に堆積してできるもので、地球上にある化石燃料の量には限りがあります。
そのため、このままでは枯渇してしまい、世界中に影響を与えることになるでしょう。
日本は、エネルギーのほとんどを海外からの輸入、それも大きく石油に依存しています。これは様々なリスクを持つことになり、世界のエネルギー情勢や産油国の政治動向に大きな影響を受ける事になり、いざという時、エネルギーが日本国内にないという状態にもなりえます。
そこで注目されているのが、次世代エネルギー(再生可能エネルギー)です。
次世代エネルギーとは太陽光や風力、水力、潮力、バイオマスなど、自然の力を利用したエネルギーの事です。
現在では、それらの次世代エネルギーを本格的に活用すべく、様々な技術開発が行われています。
世界のエネルギー問題に大きな変化をもたらす可能性を持つものとして、電気モーターを動力源として走行する電気自動車(EV)があります。単なる新型の自動車という枠を超え普及拡大が期待されています。
EVが世界中から期待が集まっている理由は、走行中に二酸化炭素を排出しないので、二酸化炭素排出抑制に役立つことです。そのため、EVに搭載されている蓄電池を電力システムに利用することが期待されています。
EVは走行距離の短さやコストが課題でした。しかし、2017年10月、1回の充電で約400kmを走ることができ、価格が400万円を下回るEVが日産自動車から登場しました。
純国産エネルギーである再生可能エネルギーの電力を使ってEVを動かすことができれば、エネルギーの自給率が高まり、日本のエネルギー輸入依存の打破に役立つことが期待されています。
日本は元々三菱自動車が世界初の量産EVを発売するなど、この分野を先導してきました。2030年までに新車販売に占める次世代自動車(EV、HV、PHV、燃料電池自動車、クリーンディーゼル自動車を含む)の割合を5~7割とするという目標が掲げられており、そのうちEV・PHVについては2~3割とすることを目指しています。
国際エネルギー機関(IEA)によると、2016年のEVの世界累計販売台数は、プラグイン・ハイブリッド車(PHV)との合計で約200万台に達したそうです。すべての自動車の中ではまだ0.2%という低いシェアですが、各国政府や自動車メーカーのEVに関する動きは活発化しており、さらなる販売量の増加が見込まれるでしょう。
実際の用途
企業や家庭で、様々な用途で蓄電システムが導入されています。ここでは、その実例を紹介します。
商業施設に必要な蓄電池システムとは
人が頻繁に出入りする複合商業施設、百貨店、ホテルなどの商業施設は照明、空調設備、防犯設備、防災設備などの電力が必要な設備が集約しています。
東日本大震災によって、全ての設備への電力が絶たれ、人的被害や事故誘発などを防ぐため、効率が良く安全な非常用電力確保が求められています。
商業施設に蓄電池システムを導入すると、非常用だけでなく、ピーク時の各設備への電力給電を押さえつつ、ピークシフトを行いコスト削減することもできます。
例えば、食品売り場の冷蔵設備は莫大な電力消費が掛かります。その消費を抑えるために昼間は太陽光発電で電力を供給して充電を行い、貯蓄した電力を夜間の営業に使用し、大幅に負荷を軽減する事ができます。さらにBEMS(Building and Energy Management System:ビル・エネルギー管理システム)を導入すると、さらに効率的にエネルギーを利用し、管理する事が可能となります。
公共施設への蓄電池導入の必要性
地震などの災害が起こって家が崩壊した場合、学校などの公共施設へ避難するでしょう。公共施設にはいざという時の電力の備えが必要であり、主に大事なデータを保存しておくサーバーのための非常用電源として高出力の蓄電池が備えられています。
太陽光発電システムを導入していて、発電した電力を使用する場合、エネルギー管理システムと連携するのがいいでしょう。このシステムにより蓄電池の電力の残量がわかり、充電状況はどうなっているのか明確にわかるようになります。
ある信用金庫の導入例
問題:停電時に発電機を持ち込んで営業したが、セットアップや電源の繋ぎこみに時間がかかりスムーズな営業ができなかった。
解決策:屋上を災害時の避難場所に開放、停電が起きても一部のシステムを営業可能な状態にする、停電時もお客様に安心を提供したい。この3つを目標に太陽光発電システムと蓄電池システムを屋上に設置。
結果:停電時でもATM、監視装置、通信機器、自動ドアなどの利用が可能。昼間に充電した電力によりコストカットでき、非常灯の確保ができたのでお客様に安心を提供できた。
次世代住宅「スマートハウス」とは
太陽光発電システムと蓄電池が標準で設置されている住宅のことをスマートハウスといいます。
家庭の電力消費量を自給自足できる次世代住宅と言われており、スマートハウスが集合してできた住宅街をスマートシティと呼びます。
住宅街の入り口の公用地にはコミュニティソーラーと呼ばれる太陽光発電設備を設置し、ここで発電された電気は実際に買電されていて、周辺地域の人達が非常用コンセントとして利用することも可能です。
住友林業のスマートハウス「Green Smart」
住友林業のスマートハウス「Green Smart」とは、エネルギーを作り、貯蓄し、賢く使うという新しい知恵をプラスした住まいです。住む人間のライフスタイルに合わせて最適なエネルギー機器を組み合わせることが可能です。
Green Smartは、HEMS(Home Energy Management System:家庭用エネルギー管理システム)を構築しており、モニターで太陽光発電システムの発電量や売買電量、電気使用量などを確認できます。 システム内では、フォーアールエナジーの家庭用リチウムイオンバッテリーシステムが活用されています。
まとめ
蓄電池の用途について解説してきました。以下まとめとなります。
・ピークシフトとピークカットを使いこなす事で電力給電の効率化と電気料金削減につながる
・蓄電池システムとEVの組み合わせの発展は日本のエネルギー輸入抑制の切り口になるかもしれない
・太陽光発電と蓄電池の組み合わせは商業施設や公共施設だけでなく、一般家庭にも普及しつつある
蓄電池の事を詳しく知り、うまく活用することによって、賢く電気料金を抑える事や電気会社の電力給電の効率化が可能となります。
電力の自給自足が可能となる太陽光発電と蓄電池の組み合わせは、災害時の停電対策だけでなく、エネルギーを輸入に頼っている日本を助ける事になるでしょう。蓄電池の使い方をよく知れば、非常用電源確保や家庭における電力の自給自足や節電だけでなく、これからの社会の発展や次世代エネルギーに役立ちますね。気になった方はぜひ蓄電池導入を考えてみてください。