世界で広まりつつある蓄電池電車! 技術の進歩により、環境に優しく景観を壊さない鉄道車両

ハイブリッドカーとは、駆動用蓄電池(バッテリー)を搭載し、エンジンで発電機を回したり、減速時にエネルギー回生を行ったりして蓄電し、必要に応じてその電気も使って走る自動車のことです。蓄電池駆動は次世代自動車技術の核のひとつといわれており、電気自動車や燃料電池自動車にも搭載されています。近年は鉄道車両にも搭載され、蓄電池電車と呼ばれています。今回は蓄電池電車について解説します。

蓄電池電車とは

蓄電池電車とは、動力源に蓄電池から供給される電力を用いる電車のことです。従来は内燃機関を搭載する気動車が主流でしたが、近年では技術革新により蓄電池やパワーエレクトロニクスの性能が向上したため、徐々に世界的に増えつつあります。

日本国内において蓄電池電車の歴史は浅いですが、世界的には古くからあります。
蓄電池電車の構造は従来の電車と同じですが、台車は蓄電池が搭載される分だけ重量が増すので、より頑丈に作られています。現在、動力としては交流誘導電動機が主流ですが、より効率の高い永久磁石同期電動機も選択肢として出てきています。制御には主にVVVFインバータ制御が用いられています。回生ブレーキを備えることで、制動時に運動エネルギーを電気エネルギーに変換して蓄電池に充電可能となっているのです。

蓄電池電車のメリット

蓄電池電車のメリットは電力供給が火力発電による場合でもCO₂排出量は気動車より少ないので、温室効果ガスの排出量が大幅に削減することです。

また、蓄電池電車は電化に伴う設備投資が不要ですので、地下鉄のように内燃機関を使用する車両(気動車)の使用が困難な路線でも使用可能です。非電化区間ではパンタグラフが架線と接触しない為にパンタグラフが摩耗しにくいなど、非電化区間の電化が比較的容易になります。

気動車と比較すると、静かで、騒音・振動が少なく、回生ブレーキを使用出来ますので効率が高いです。加速性能が電車と同じため、電化路線への乗り入れ時に速度差を考慮する必要がありません。

それだけでなく、気動車の検修設備は専用の設備、人員を配置しなければいけませんが、蓄電池電車は共用が可能ですので、人件費とメンテナンスの労力を抑制できます。

蓄電池電車のデメリット

蓄電池電車のデメリットは高価であり、蓄電池電車への充電は気動車の給油にかかる時間と比較すると長い時間を要することです。

バッテリーによる航続距離は気動車よりも短く、電池が切れた場合は救援車を手配しなければいけません。

蓄電池は化石燃料と比べるとエネルギー密度が低いため、気動車と比較すると蓄電池電車は重く、出力重量比が小さくなるため、加減速性能が劣ります。
高速化や長距離の路線、専ら非電化線区での運行には向いていません。

鉄道総合技術研究所の蓄電池電車研究開発

1999年、日本の鉄道総合技術研究所が以下のような架線と車載蓄電によるハイブリッド電源形電車の研究開発を開始しました。

・架線のある区間:架線から集電して走行しながら車両に搭載された蓄電池(主にリチウム蓄電池)に充電
・架線のない区間:充電した電池の電力により走行

鉄道総合技術研究所の研究開発以降、上記のような方式による蓄電池電車の開発が進められ、2010年代に入り実用化されることとなりました。

水素燃料電池で動く蓄電池電車HYBARI

装置の開発をトヨタ自動車、ハイブリッド駆動システムの開発を日立製作所が担当するハイブリッド車両(燃料電池)試験車両では、水素タンクに充填された水素が燃料電池装置へ供給され、空気中の酸素との化学反応を起こすことにより発電します。主回路用蓄電池とハイブリッド駆動システムはそれぞれ以下のような働きをします。

・主回路用蓄電池:燃料電池装置からの電力とブレーキ時の回生電力を充電
・ハイブリッド駆動システム:燃料電池装置と主回路用蓄電池の両方からの電力を主電動機に供給し、車輪動作制御

試験車両の車両形式はFV-E991系2両1編成、最高速度は100km/h、航続距離は最大約140kmです。「変革を起こす水素燃料電池と主回路用蓄電池ハイブリッドの先進鉄道車両」(HYdrogen-HYBrid Advanced Rail vehicle for Innovation)」から「HYBARI(ひばり)」と名付け、車体側面にロゴをデザインしています。
2022年3月頃から、鶴見線と南武線尻手支線(浜川崎~尻手間)、南武線の尻手~武蔵中原間で実証試験予定となっています。

イタリアの日立レールSpAが開発した蓄電池駆動トラム車両

2021年1月、イタリアのフィレンツェで、日立レールSpA(イタリア)が開発を進めてきた蓄電池駆動トラムは3.5kmの距離を無事に走り切りました。車両は通常と同じですが、走行のために架線から電力を供給するためのパンタグラフは閉じたままでした。
日立は今まで環境に配慮した鉄道車両の導入に向けて様々な取り組みを行ってきました。この蓄電池トラムはその中の1つです。

蓄電池電車は日本において、主に非電化区間で運行されるディーゼルカーに代わるものとして営業運転されています。
電化されているのが前提のトラムと蓄電池駆動は一見繋がりがないようにも見えますが、蓄電池駆動は未来のトラムに必要不可欠なシステムとなるでしょう。

蓄電池駆動が未来のトラムに必要不可欠なシステムとなる理由

蓄電池駆動が未来のトラムに必要不可欠なシステムとなる理由は以下の通りです。

高価な架線設備が不要になる

1つ目の理由は「高価な架線設備が不要になる」ことです。

ヨーロッパでは、現在も積極的にトラムの新規開業や路線延長が進められていますが、電力供給に必要な架線設置や維持管理に多額の費用がかかるため、導入に踏み切れていない年もあります。
しかし、蓄電池トラムが実用化されれば、起終点や中間駅での充電設備さえ整備すれば、高価な架線設備は必要ありません。

蓄電池を再充電することでエネルギー消費削減につながる

2つ目の理由は「蓄電池を再充電することでエネルギー消費削減につながる」ことです。

蓄電池トラムは、ブレーキ時に発生する回生電力を使って蓄電池を再充電することができます。それを加速時に使用すれば、エネルギー消費の削減につながります。
また、その仕組みは日本でもすでに新幹線や在来線車両で実装が始まっている停電時の緊急走行用にも役に立ちますので、既存の路線でも活用できるシステムといえます。

架線や架線柱で町の風景を損ねない

3つ目の理由は「架線や架線柱で町の風景を損ねない」ことです。

イタリアをはじめとした、特に中世の街並みが今も残る都市では、架線や架線柱が景観を損ねるとして市民から反対されるケースがあります。
今回のテストに選ばれたフィレンツェでは今も「町の風景を損ねるような乗り物は要らない」と反対する声が多く、開業から10年以上が経過した現在も旧市街の最深部への乗り入れを果たせていません。
今後、新たにトラム導入を検討しているヨーロッパ都市にとって、架線レスの蓄電池トラムは非常に大きな後押しとなるでしょう。

技術革新により再び蓄電池電車に注目が集まる

蓄電池を動力源とする車両自体はヨーロッパでは19世紀から実験が行われており、その後、実用化もされています。

1954年に登場し、1995年に引退したドイツのETA150型バッテリー車両は勾配線区では電力消費量が多く使い物にならず、主に平坦路線で使用されました。この時点では、まだ蓄電池車両はディーゼルカーの代わりになれなかったため、非電化区間はディーゼルカーが独占していました。

時代は進み、技術革新により蓄電池性能大幅向上と電池本体の小型軽量化が進みました。また、環境に負荷のかかる鉛電池に代わりリチウムイオン電池が主流になったことで、蓄電池駆動の鉄道車両が再び注目を集め始めました。

電池本体サイズが大きかった時は客室スペースを犠牲にして搭載していました。今回、日立レールがテスト走行したトラムでは電池は屋根上に搭載され、サイズもほかの機器に干渉することがない、かなりコンパクトな大きさになっています。

開発に力を入れている海外大手鉄道メーカー

蓄電池を動力源とする鉄道車両は、ヨーロッパ大手鉄道メーカーも開発に力を入れています。

ドイツ

ドイツのシーメンスは近郊型車両「デジーロML」に蓄電池を搭載し、2019年からオーストリア国内のローカル線で実際に営業運転しています。ドイツのバーデン=ヴュルテンブルク州に最大120kmの区間を最高時速160km/hで走行可能な最新型蓄電池車両「ミレオ plus B」が投入されることも決まりました。

フランス

フランスのアルストムは、ドイツのライプツィヒ地方向けに近郊型車両「コラディア・コンチネンタル」の蓄電池搭載型を納入する契約を交わし、バッテリー駆動の入換用機関車「Prima H3」をラインナップに加えています。

大手以外の動き

英国のヴィヴァレイルは、ロンドン地下鉄で廃車となったD型車両をベースにした中古改造車両に蓄電池駆動が可能なタイプを加え、スイスのシュタドラーも連接式車両「FLIRT」に蓄電池駆動が可能なタイプを加えています。
中国中車(CRRC)のハンガリー向け電気機関車「Bison」には、架線のない構内入換用として、短時間だけ使用可能なバッテリーを搭載する予定です。

すでに世界各地で実用化されている蓄電池駆動トラム

2007年にトラムを開業したフランスのニースでは、都市の景観を保つだけでなく、カーニバル行列の邪魔にならないように路線の一部区間だけ架線がなく、バッテリーで車両を動かしています。

また、2019年12月に英国のバーミンガムは新たに延伸された1.7kmの区間が周囲の景観を考慮して架線レスとなっており、スペインCAF製のトラムに蓄電池を搭載する改造が行われています。

さらに、トルコのコンヤではシュコダ(チェコ)製の蓄電池駆動トラムを導入し、市内約3kmの区間を架線レスで建設・運行が行われています。また、イタリアのボローニャで計画されている新しいトラム路線は、中心部の一部区間を架線レスの蓄電池駆動にすることを決定しています。

まとめ

蓄電池電車について解説してきました。以下、まとめになります。

・蓄電池電車とは、動力源に蓄電池から供給される電力を用いる電車であり、世界中で増えつつある
・蓄電池電車は、温室効果ガスの排出量を大幅削減可能、電化に伴う設備投資不要ですが、高価で充電時間が長く、高速化や長距離の路線、非電化線区の運行には向いていない
・景観を損ねない架線レスの蓄電池駆動トラムは、中世の街並みが今も残るヨーロッパにとって蓄電池電車導入の後押しになる

電気を流す架線や架線柱がない蓄電池電車が広がっていけば、現代で求められている地球環境に少しでも優しい移動手段となります。また、蓄電池自体に電気を貯めておけますので、災害時などの停電中でも電車を走らせることができます。蓄電池電車の開発技術はまだまだ進んでいくと思われますので、今後の蓄電池電車の動向に注目です。

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蓄電池コンシェルジュは、蓄電池を購入しようとお考えの方々に、蓄電池を活かした暮らしをするための上質なコンシェルジュサービスをご提供しております。再生可能エネルギーに理解のある方々にご利用頂くことが「脱炭素社会」実現へのカギとなります。蓄電池コンシェルジュは、文化的、社会的資産を後世に引き継ぎ、社会的責任としての取組みのみならず、日本の人口減少と地球温暖化の危機を救うためのお手伝いをさせて頂いております。

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蓄電池コンシェルジュ代表
根上 幸久

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